さらわれた娘

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さらわれた娘

 強く冷たい風の吹き上げる断崖絶壁の洞窟。  マリーは崖下を見下ろして、何度もため息をついた。  ここから逃げる事はできるのかしら。いいえ、絶対に無理だわ。  洞窟はそれほど広くない。薄闇に包まれてはいても、全体が見られるほどの広さだ。自分の家の部屋二つ分くらいに見える。端には寝床だろうか、乾いたわらが積み上げられている。  マリーはつい先程ここに連れられてきた。コンドルにさらわれたのだ。  気付かなかった自分を呪う。コンドルは若い男の姿で近づいてきた。マリーはたまたま一人で牛の世話をしていた。見かけない若者はとても礼儀正しく、とても魅力的だった。マリーは少し心をときめかせ、一緒に昼食を食べないかという若者の申し出を受け、それから空に飛び立った。  気づいた時には遅かった。昔、祖母が言っていた。時々、コンドルが若い娘をさらいに人里に降りてくるという話。まさか自分がそうなろうとは。  自分はこれからどうなるのだろう。コンドルは私を食べるつもりだろうか。  コンドルは自分をここに連れてきて、お前はこれからここで暮らすのだと言った。  それがどういうことなのか、マリーにはわからない。ただ、恐怖と不安でいっぱいだった。優しい母親と物静かな父親の顔を思い浮かべ、マリーは涙を流した。おそらく彼らに会えることはもうないのだろうと。  コンドルはマリーを洞窟に連れてきたあと、すぐにどこかへ飛んで行ってしまった。早く逃げ出さなくてはと思ったものの、ここが切り立った崖の中腹にあることを知り、どうにも動けないと悟ったのだ。
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