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「お待たせしました、山の主様」
戻ってきた主人の声で、コンドルは我にかえった。
「こんな小さな住まいで恐縮ですが、山の主様にお越しいただき、とても光栄です」
頭の禿げた太った背の低い男は、赤ら顔に人の良い笑顔をたたえていた。後ろに控えている女がカゴ一杯のオレンジを差し出す。大ぶりの果実は、カゴからあふれ出さんばかりに輝いていた。
「さあ、もぎたてのオレンジですよ。遠慮なくお持ちになって下さい」
「ああ、どうもありがとう。これで、きっと……」
オレンジを一つ握り締め、コンドルは言葉に詰まった。これで、マリーの病気は良くなるだろうか。これで、マリーは喜んでくれるだろうか。彼女がほしいと言ったものをあげるのは初めてだ。なんでもいい。とにかく彼女が良くなるのならば、なんだってしてあげたい。
不安と後悔をいっぱいに溜めたコンドルを見て、小さな農園の夫婦は顔を見合わせた。
「よろしければ、私どもの使っている薬草をいくつか差し上げましょうか」
「本当か……なにせ、人間の娘なものだから、一体どうすれば具合がよくなるか見当もつかなくて」
「そうでしたか、それはさぞ御心配でしょう。お前、薬棚から幾つか持ってきてくれないか」
「ええ、あなた」
「ああ、本当に有難い。この礼は必ずしよう」
「いえいえ、あなたのような方にこんな台詞は失礼かもしれませんが、困った時はお互い様、ですよ」
「そうですとも、ほら、これを煎じて一日三回飲ませてあげてくださいな」
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