仕上げに

2/6
前へ
/34ページ
次へ
「お嬢さん、川に来るのは久しぶりですね」 「ええ、ずっと臥せっていたから。でももう、すっかり良くなったわ」  へえ、とヒキガエルは声に出さずにつぶやいた。なるほど、それで最近コンドルも川に来なかったのか。きっと娘の看病でそれどころではなかったのだろう。まあ、助言を求められたらそれはそれで面白い事を言ってやったのだが。  もしや、コンドルに看病されて娘は内心少しほだされてしまったんじゃないだろうな。確かめる必要がある。ヒキガエルは言葉を慎重に選んだ。嘘ではないが、曖昧な台詞を。 「そうですか、お元気になられてよかった。ずっと心配してたんですよ。ここの所コンドルも見かけませんでしたから」  コンドルを見かけなかった? マリーはその言葉が気になった。  もしかすると、もしかして万が一かもしれないが、自分を看病してくれた若者はコンドルだったかもしれないとマリーは少しだけ思い始めていた。  でも自分が病気になっている間、コンドルが居なかったとすれば? オレンジを食べさせてくれたのは一体誰?  マリーの表情の変化をヒキガエルは見逃さなかった。 「どうしたんです」  マリーは言い澱んでいる。これは何かあったなと、ヒキガエルは辛抱強くマリーの言葉を待った。 「私が病に臥せっている間、誰か、見たことのない若者が私を看病してくれたの。でも、それはきっと私の幻覚ね。もしかすると、コンドルかもしれないってちょっと思ってしまったんだけど。そう……、コンドルは居なかったのね。そうよね、そんなわけないわ。あのコンドルが私をあんなに優しく看病してくれるなんて」  独り言のようなマリーの言葉でヒキガエルは状況を理解した。今回も俺の勝ちだ、ヒキガエルはほくそえむ。あと少しで娘はコンドルの本心に気づいたかもしれないが、残念ながらそうはさせやしない。 「ああ、覚えていてくれたんですね。私があなたを看病したことを。本当に心配で心配で……。コンドルが遠出をしたタイミングを見計らって、川から水を汲み、あなたを看に行っていたのですよ」  マリーは目を見開いた。目の前にいるのはヒキガエルだというのに? 「信じられないのも無理はありません。私はコンドルに魔法をかけられて、こんな姿になってしまった人間です。時折、コンドルの魔法が弱まると人間に戻れるのです。その隙にあなたを見舞っていたのです」 「まあ……、まあ、そうだったの。私をずっと看病してくれたのは、あなただったのね」
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加