私を愛する貴方へ。……ゆるさない

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 さぁ、私は今日も頑張った。  自分のための努力が苦にならない私は、汗が止まることのない道を他の自転車たちを追い抜くスピードでこぎ、他の人なら10分はかかる道を5分で走り切り家に着く。仕事帰りなのだからゆっくりでいいのだが、私のための時間を確保するためには一分も惜しい。故に急げるなら、私は急ぐ。 「あつ……」  湿り気を帯びたじとりとした暑さもあって、顎をいくつもの汗粒が伝う。それを手の甲であらく拭って、涼しい部屋へと早く行きたいという気持ちで駐輪場に止めようとした私は、自転車の蹴るべき部分を間違えてじんわり足が痛むのを感じた。慌てたり油断すると、ドジな私はいつもこうなる。どれだけ年を重ねても、こういったところは変わらない。  じぃん、と響く足を少し引きずりながら階段を上がり、私は自宅のドアノブを掴んだ。扉を開ければ、今まで自分を包んでいた憂鬱が吹き飛ぶほど涼しい空気が身を包んだ。その心地よさに思わず口角を上げながら私は必ず口にする言葉を言う。  さぁ、ここからドジな私はもう終わりだよ。
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