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あの頃、僕は地元でそこそこの進学男子校に通う冴えない高校生だった。 そんな僕にも、親しい友人がいた。 冴木 順(さえき じゅん)。 彼は細身で男にしては妙に綺麗な顔立ちをしていて、むさ苦しい男だらけの中では目立つ存在だった。 性格は明るくて人懐っこくて、いつもクラスの中心にいるような人物。 自分とは遠い世界の人間だと思っていた。 しかし何の奇跡か偶然か、僕たちは親しくなった。 そうそれは、親友といっても過言ではない程に。 だから僕は、彼の隣に立つのが恥ずかしくないように眼鏡をコンタクトにした。木偶の坊と呼ばれ丸まっていた背中を真っ直ぐにする努力をした。筋トレをした。 けれどどれだけ外見を取り繕っても、僕なんてという思いが抜けることはなくて自分に自信が持てなかった。こんな僕が彼のそばにいる資格なんてないと思った。 そんな時、彼は「お前はお前のままでいいんだって」 決まってそう言って笑ってくれたんだ。 僕はそんな彼のことが好きだった。もはやこれは、友情を超えた愛情だった。 別にゲイというわけじゃない。 多分僕は、男も女も好きになれるバイというやつなのだ。 でもこの想いを伝える勇気も覚悟もないから、 僕はそれをひた隠しにして彼の隣に立ち続けていた。 ところで、彼には双子の妹がいた。二卵生だという顔はお世辞にも彼には似ておらず、地味でどこか陰気な雰囲気で。実際彼の家に遊びに行った時などに会うと、彼女は必要最低限の挨拶だけして逃げるように部屋に引っ込んだ。 彼はそんな妹にも優しくしていたが、僕は何となく彼女が苦手だった。 だって彼女は僕らから逃げるくせに、こっそりと僕らを盗み見ていたりする。 長い前髪の隙間から覗く細い目が、じっとりとまとわりつくような視線が不気味で居心地悪かった。 そして忘れもしない、高2の冬。 あの日はとても寒くって、僕らは学校終わり外気から逃げ込むようにファストフード店に入って、ポテトとキャンペーンで安くなっていた15ピース390円のチキンナゲットを分け合って食べた。 駅に行くとちょうど電車が発車してしまったところで、僕たちは無人のホームに2人で取り残された。 こんな田舎町じゃ次の電車が来るまでに30分以上かかるけれど、今更引き返すのも面倒くさくて僕と彼はお喋りをして時間を潰した。 彼は僕のつまらない話をうんうんとよく聞いてくれて、笑顔を見せて、それから「俺たちはずっと友だちだよな」と曇りのない顔で言った。 その瞬間、僕は堪らない気持ちになった。 「そうだね」と答えるはずの口は代わりに「好きだ」と彼への想いを吐き出していた。 実を言うと僕は大分限界だったのだ。彼のそばで、日々募っていく彼への想いを隠していることに。 僕は彼にとってずっとただの友だちでしかないことに。 ついに言ってしまった。襲ってくる後悔と、もしかしたら何かが変わるかもしれないという僅かな期待感を持って僕は彼を見た。 けれど。 「気持ち悪い……」 彼の声は、嫌悪に溢れていた。 「お前も俺をそんな目で見ていたのか」 そう軽蔑するように僕を見た。 そして僕から離れて行こうとした。 僕はそれを引き止めようとして 「触るな!」そう彼から強く拒絶されて 「お前なんかを友だちだと思ってたことが間違いだった」 これまで築いてきた思い出までも否定されて 僕は―――気づいたら彼の背中を突き飛ばしていた。 バランスを崩して線路に落ちていく彼の身体。 『まもなく回送電車が参ります』響くアナウンス。 線路の上で呆然と倒れ込む彼の元に猛スピードの電車が迫って―――愛する人は、目の前で肉片となって飛び散った。 僕はその場に尻もちをついてガクガクと震えた。 知らぬ間にこぼれた小便がズボンを濡らした。 「おにい、ちゃん……?」 振り向けばそこには、細い目を見開いて顔を青ざめさせる彼の妹がいた。 「……どうして……?」 彼女は全てを目撃していた。
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