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彼が同じ学校の生徒から性欲の対象として襲われかけていたことを後から知った。
そして僕の告白が、限りなく最悪のタイミングであったことも。でも全てが後の祭りだ。
彼は即死だった。
死体はぐちゃぐちゃで、綺麗な顔は原型さえ留めていなかった。僕が、僕が彼を殺したんだ。
僕と彼の妹は警察に事情聴取を受けた。
彼女は何故か警察に何も喋ろうとしなかった。
僕が突き飛ばしたせいで彼が死んだことを知っているはずなのに。一向に黙秘を続けた。
そして犯した罪の重さに震え、全てを正直に打ち明けると決めていたはずの僕は、彼女が黙秘を貫いていると知って
“彼が誤ってバランスを崩して自分からホームに落ちた”そう嘘をついた。
捕まるのが怖かった。未来を失いたくなかった。
家族に殺人犯の家族という汚名を着せたくなかった。
僕は愛する人の未来を奪ったくせに自己保身を選ぶ最低のクズ野郎だった。
彼の妹は、それでも何も言わなかった。
けれどそれ以降彼女は僕の周りをうろつくようになった。
もう僕の隣に彼はいないのに、あのじっとりとした視線がどこまでも僕を追いかけた。
彼女はやはり何も言わない。
兄が死んだ悲しみを見せることも、僕を責め立てるような言葉もなく、ただ“見て”いるだけ。
それなのに僕はどんどん病んでいった。
彼女が僕のやったことをばらすのではないか。
復讐の機会を伺っていて、そのために僕を監視しているのではないか。
どこにいても彼女が僕を見ている気がした。
「ゆるさない」
耳元ではいつだって殆ど聞いたこともないはずの彼女の声が響いていた。
彼の死から1ヶ月経たないうちに、僕は警察に自首をした。
罪の意識に耐え切れなかったのもある。
けれど何より、彼女の視線から逃れたかった。
そうして僕は少年院へと送られたのだった。
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