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そうして食べた朝食は、まったく味がしなかった。 けれど残すことも出来なくて、必死に詰め込んで飲み込む作業を繰り返すことで食事を終えた。 それから、改めて彼女と向かい合う。 僕は「どうか間違いであってくれ」祈るような気持ちで彼女に尋ねた。 ―――君は、“彼”の妹なのか? 彼女はあっさりと答えた。 ―――はい、そうですよ。 「だって、顔が……」 変わっている。あの頃の彼女はもっと重たげな細い目をしていたはずだ。 「ああ、それは整形です。目とか鼻とか結構いじってるので。それに女は化粧でも結構変わりますからね」 いつの間にかまた敬語で話すようになった彼女は、何でもないようにそう答えた。 彼女が纏う雰囲気だって、まるで別人のようだった。 「どうして?」 そう尋ねずにはいられなかった。 彼女は僕が僕であると―――自分の双子の兄を殺した犯人であると知った上で僕に近づいて……その上肉体関係を持った。 到底受け入れ難い事実に、僕は吐き気さえ催し始めていた。 「どうしてこんなことを……? 僕に復讐するため……?」 彼女は迷いなく首を横に振った。 「違います。私はあなたのことを恨んだことなんてありません。むしろあなたには―――感謝しているんです」 そして彼女の独白が始まった。 「お兄ちゃんは人当たりが良くて、誰にでも好かれて、陰気な妹にもいつも優しい、できた人間。 きっと、周りからはそんな風に思われていたと思います。でも本当は違ったんです」 「本当のあの人は、私にだけいつも優しくなかった。私は小さい頃から、いつもお兄ちゃんに虐められていました」 「お兄ちゃんはいつも執拗に私を詰った。 見た目も性格も私の何から何まで否定されて、親に隠れて暴力だって振るわれた。 友だちを作ることはおろか兄以外の人と喋ることも許されなくて、破るとより酷い目にあった」 「私の処女を奪ったのもお兄ちゃんでした」 「ブス、キモイ、って罵って殴りながら私のことを犯したんです。それから度々、お兄ちゃんに犯されるようになりました」 「私が何を言っても信じて貰えない。みんな兄のことを信じました。 私は兄のことがずっとずっと嫌いだった。憎かった。死んで欲しいと思ってた。 だけど私には兄を殺す勇気も、人殺しになる覚悟も持てなかった。だから私、嬉しかったんです」 「あの日、あなたが兄を殺してくれて、私はやっと解放された。 あなたにお礼が言いたかったけど、あの頃の私は人とまともに喋ることも出来なかったから……それに、あなたが少年院に入っている間は立場上面会にも行けなかった。でも、ずっと伝えたかった」 ―――お兄ちゃんを殺してくれて、ありがとう。 彼女は僕に向かって、満面の笑みでそう言った。
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