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「えっ?」
お姉さんの言葉に驚いて、思わず隣を歩くお姉さんの顔を見た。その表情は笑顔だった。だけど、その笑顔はどこか寂しそうで……。
「私ね、そろそろ君とお別れしないといけないの」
お姉さんの言葉に驚いて、中学生の僕は声が出ない。
「お別れしたら、君の中の私の記憶はなくなると思う……」
そう言って俯いた彼女の顔は寂しそうだった。僕は咄嗟に、
「忘れないよ!」
そう叫んでいた。お姉さんは顔を上げ、何かを言おうとしていたがすぐに夜空に大輪の花が咲いた。
ヒュー……、ドンッ!
連続して上がる打ち上げ花火に二人でしばらく目を奪われる。でも僕はすぐに隣のお姉さんが気になり、横目でチラリとその表情を覗いた。
お姉さんは、笑っていた。
優しいその笑顔はお姉さんにとても良く似合っていると、僕は思った。
お姉さんは僕が彼女のことを忘れると言ったが、僕は絶対に忘れないと、その横顔を見ながら誓った。
それから花火大会が終わった後の記憶が、僕にはない。気付いたら翌日になっており、お姉さんがいたはずの家は更地になっていた。
両親の記憶からお姉さんのことは消えていたし、近所の誰もがあの更地にいたお姉さんのことを覚えていなかった。
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