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だがそうやって彼の姿を見ているうちに、彼女は、もしかして自分より彼のほうがましなのかもしれない、と思うようになった。彼の仕事は毎日そこに立っていることだが、訪問者がいれば会話ができる。ときにはさわやかな外の風に触れることもできる。そんな風は、桜や、遠くの潮の匂いを含んでいて、目を閉じればそんな景色を思い浮かべることもできるだろう。
少なくとも彼は、自分のようにすぐ隣に先輩の女子がいて、一日中見張られてはいない。
彼よりも自分のほうが、もっと惨めな境遇なのだ。そう思って彼女は悲しくなった。
元々彼女は就職活動をするとき、どんなところが自分に向いているのかわからなかった。だがやがて金融系の仕事をしたい、と思うようになった。そして銀行や信用金庫を回って、決まったのが今の地方銀行だった。そのときは嬉しかった。両親や友人も祝福してくれた。
就職してから二年間は本社に近い支店に勤務となり、学生のころと生活が一変した。大変ではあったが、知識を積み経験を重ね、社会人として成長していく自分を感じて、日々充実していた。
それがこの春、突然にここへ異動となったのだ。
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