1

1/9
前へ
/36ページ
次へ

1

 彼はずっとそこに立っていた。 ぴっと背筋を伸ばし、足を肩幅よりやや広めに開いて、両手は後ろで組み、顔は前を向いて。  そういう仁王立ちのポーズで、彼はずっとそこに立っていた。お昼と、午前と午後に一回ずつの見回りと休憩を除いて、朝から夕方まで一日中。  なぜなら、それが彼の仕事だったからだ。  彼の仲間の中には、「一日中突っ立っているだけなんて、疲れて集中力も鈍るよ」と言って、自主的に休憩を取る者もいる。だが彼は立っている間も身体を引き締めていたし、頭の中では、何か緊急の事態が起こったときの行動をいつも考えていたので、心身は緊張していた。また元来が寡黙な性質なので、無言で立っていることは彼にとって苦ではなかった。  彼は頑固に、一途に、そこに立っていた。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加