おとな(攻め視点)

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おとな(攻め視点)

瞬ちゃんと想いが通じ合ってから早半年。 俺たちの関係は相変わらず良好だ。 スキンシップやキスにも慣れてきたし、最近は瞬ちゃんの方からもたまにしてくれるようになった。 本当にごくたまーにだけど。 毎日が怖いくらい幸せで、こんな時間がいつまでも続いてくれればいいのにと思う。 でも人間というのは欲深い生き物で、一度幸せを知ってしまうともっともっとと新しいものを求めてしまう。 俺はこの1年間瞬ちゃんと両想いになれて十分すぎるくらい満たされたと思っていたのに、最近になってある大きな悩みを抱えることになってしまったのだ。 それは、瞬ちゃんともっと先に進みたいという欲求がだんだん大きくなってきたことだ。 けれど、もし怖がらせたらどうしようとか嫌われたら嫌だとか思ってしまってキス以上のことはなかなか言い出せなかったのだ。 そもそも瞬ちゃんはそこまで求めていないかもしれないし。 「ふー、いいお湯だった」 俺がソファでくつろいでいると、お風呂から上がった瞬ちゃんが隣に腰掛けてきた。 Tシャツにハーフパンツというラフな格好で、髪は乾かし済みなのかふわふわしていて可愛い。 「彗って明日休みだよな。なんか予定あるか」 「んー、特に無いけど。どっかいきたいとこでもあるの?」 「べつに」 そう言って瞬ちゃんは俺の肩に体重を預けてきた。 甘え下手な瞬ちゃんが自分からスキンシップを仕掛けてくるなんて珍しいこともあるものだ。 俺は左肩に感じる重みを幸せに感じながら彼の髪を優しく撫でた。 「構って欲しいの?」 「……そうだよ。悪いか」 ぶっきらぼうだけど、ほんのり赤く染まった耳たぶが堪らなく可愛い。 「ううん、嬉しい」 この不器用な幼馴染が不器用なりに精一杯愛情表現してくれることが何よりも嬉しい。 俺はそのまま瞬ちゃんを抱き寄せて彼の頬に軽い口づけを落とした。 シャンプーのいい香りに混じってふわりと瞬ちゃん自身の匂いを感じる。 親指の腹で優しく頬を撫でると、瞬ちゃんは気持ちよさそうに目を細めた。 きっと瞬ちゃんはもう眠いだろうから早く寝室に行かせてあげないとな、なんて考えていると不意に俺の太ももの上に手が置かれる。 内ももを優しく撫でられる感覚がくすぐったくて思わず身を捩りながら、俺は瞬ちゃんの顔を覗き込む。 「ふふ、もう。なぁに?」 俺が首を傾げると、瞬ちゃんは不貞腐れたように視線を逸らした。 「口にはしないのかよ」 まさか瞬ちゃんからそんなセリフを言ってくれるとは思わず一瞬思考が停止してしまう。 そしてすぐに嬉しさが込み上げてきて、顔がニヤけてしまいそうになるのを必死に抑えながら俺は瞬ちゃんの唇に自分のそれを寄せた。 ちゅ、と触れるだけの軽い口付けをしてゆっくり顔を離すと、今度は瞬ちゃんの方から俺の首に手を回して唇を重ねてきた。 目を閉じていても彼の頬が蒸気しているのが分かる。 「ん、」 角度を変えて何度か啄むような軽い口づけを繰り返す。 幼いキスだけど、瞬ちゃんが一生懸命応えようとしてくれているのが伝わってきて胸がいっぱいになった。 やがてどちらからともなく唇を離すと、瞬ちゃんは俺の肩口に顔を埋めてしまった。 瞬ちゃんのデレもそろそろ限界だろう。 「ふふ、もうおねむの時間かな」 つい茶化すような口調で言うと、瞬ちゃんは無言の抗議と言わんばかりに俺の脇腹をつねってきた。 「痛いんですけどー」 「うるせえ」 「ふふ、ごめんごめん」 俺は瞬ちゃんの髪を優しく撫でながら、彼の耳元に唇を寄せた。 「もう寝よっか」 すると、彼は俺の肩口に顔を埋めたまま、ふるふる首を振って拒否を示した。 今日はやけに甘えたさんだ。 ここまで来ると、なにかあったのではと逆に心配になる。 「どうしたの。なんかやなことでもあった?」 「……そういうんじゃない」 瞬ちゃんはそう呟きながらも、ぐりぐりと額を押し付けてきた。 素直になれない彼がなにを求めているのか、汲み取る能力はそれなりに培ってきたつもりだったけれど今日ばかりは見当もつかない。 なんとなく、甘えたい気分なのはわかるんだけど。 俺は瞬ちゃんの背中を撫でながら彼の言葉を待った。 「……い」 「ん?」 「もっと大人なやつ、したい」 蚊のなくような、か細い声でそう呟くと、瞬ちゃんは俺の服をぎゅっと握ってきた。 『おとななやつ』 俺はしばらく固まってしまった後、じわじわと顔に熱が集まるのを感じた。 「だから……その、映画のラブシーンとかであるだろ」 一瞬聞き間違いかと思ったがそうではないらしい。 瞬ちゃんは耳まで真っ赤にしながら消え入りそうな声で続ける。 「し、舌とか入れたりするやつ……。あれ、彗としてみたい」 俺は予想外の発言にフリーズしてしまった。 沈黙を拒否だと捉えたのか、瞬ちゃんは俺の両肩を押して距離を取った。 俯き加減で表情はよく見えないけど、その耳は真っ赤に染まっていた。 「ごめん、なんでもない」 そう言ってソファから立ち上がろうとする瞬ちゃんの腕を俺は咄嗟に掴む。 「まって」 「嫌なら無理しなくていい。悪い、忘れてくれ」 「瞬ちゃん、聞いて」 逃げようとする瞬ちゃんを引き寄せ、なんとか俺の隣に座らせたものの、瞬ちゃんは俺と視線を合わせようとせずに俯いている。 「嫌なわけないよ」 「じゃあなんでずっと我慢してんだよ。俺、言ったよな。『勝手に距離置かれるのは寂しい』って」 「瞬ちゃん…」 「俺が気付いてないとでも思ったか」 遠慮していたのも全部瞬ちゃんにはバレていたのだ。 「前に『一度したら抑えが効かなくなりそう』って言ってたから、その……いつその日が来るのかなって、ちょっと期待してたのに」 後半は消え入りそうな声だったが、俺の耳にはしっかりと届いた。 初めて口づけを交わした日に確かにそんなことを言った記憶があるけれど、こんなに可愛いことを言われてしまうなんて。 「でもお前、全然手出してこないし、相変わらずなんか遠慮してるっぽいし。俺がこんなちんちくりんだからそういう気分にならないのかなって」 だから今日は勇気を出したのだと、瞬ちゃんはそう言って俺の服の裾を控えめに引っ張った。 「ごめんね、また不安にさせて」 「……さっき、死にそうなくらい恥ずかしかったんだけど」 責任取れよ、と瞬ちゃんは俺の目を見て言った。 俺はたまらず瞬ちゃんを抱き寄せ、もう一度口付ける。 「ん……」 何度か触れるだけのキスをした後、俺はゆっくり瞬ちゃんの唇を割って舌を入れた。 「……ふ、」 瞬ちゃんも遠慮がちに舌を出してくる。 ぎこちない動きだけれど、求め合うように優しく絡め合う。 「……んう」 右手で耳たぶをすり、と撫でると、瞬ちゃんの身体がびくりと跳ね上がった。 そのまま耳の縁をなぞったり首筋を撫でたりしながら深く口付ける。 「ん、……っ」 呼吸が苦しくなってきたのか、瞬ちゃんが俺の胸を押し返すように抵抗してきた。 「は、ぁ……」 とろんと蕩けそうな目で見つめられ、俺の理性がぐらつく。 もう何年も一緒にいるのにこんな表情を見せてくれるなんて、知らなかった。 これからもっと、色んな瞬ちゃんを見ていけるのだと思うと嬉しくて仕方がない。 そして、瞬ちゃんにこんな表情をさせているのが紛れもなく自分だということも。 「瞬ちゃんかわいい」 「うるせえ」 そんな悪態も、今はただ愛しいだけだ。
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