背徳感

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 扉を開けると、和真がもう我慢できないと言って唇を奪ってきた。  そのまま玄関先で立ったまま体を(まさぐ)られる。彼の強い力によって洋服は脱がされていき、あっという間に下着姿になる。 「いつ見ても、エロい」  和真はそう言うと、もう一度強引に舌を絡ませてくる。 「たまんねーよ」  私は彼に抱きかかえられて寝室へ。    夫と子どもの枕があるそのダブルベッドへ寝かされると、私はすぐに下着を剥ぎ取られた。カーテンが開いていて、マンションの五階から見える空が青い。急に恥ずかしくなって両手で胸を隠そうとすると、「なんで? こんなに綺麗なのに」と言ってその両手を外された。首筋を舐められ、耳に舌を這わせてくる。  全身が熱くなり、頭がぼーっとした。  私は今、不倫相手と情事を重ねていた。まだ午前中だというのに。  彼にも奥さんがいる。つまり、ダブル不倫。  和真のお嫁さんは誰もが羨むような美人。スタイルも良く、学生の頃からずっとモテていた。それはもうわかりやすいぐらいちやほやされていて、いつも目の前で彼女が告白をされるのを見ていたから知っている。  私と唯は高校からの親友だ。お互いのことはすべてお見通し、というぐらい私たちは信じ合っていた。  初めて和真を紹介されたのは、もう三年も前のこと。長身で色黒な年上のイケメン。どこかの俳優かなと思うぐらいオーラがあって、まさに美男美女のカップルだった。  二人はすぐに結婚をし、新居で暮らす。  唯たちよりも少し早く結婚をして、男の子をもうけていた私を人生の先輩として敬う唯は、私の偉そうなアドバイスを真面目に受け取って幸せな日々を過ごしていたに違いない。  異変が起きたのは、彼女の結婚から二年が過ぎた頃。子作りを始めていた二人には、なかなか新しい命が宿らなかった。焦れば焦るほど子どもができない。何度も相談を受けていたから、唯の辛さは痛いほど伝わっていた。  病院に通うべきか彼女が悩んでいたとき、和真から連絡があった。 「話、聞いてくれないかな」  それまでも何度か家族で食事をする機会もあり、私たちはすでに連絡先を交換し、個人的な悩みや相談を交わしていた。  グループラインの他に、二人だけのやり取りをするのは後ろめたさもあったが、どこか背徳感があってやめられなかったのがその先に発展する理由の一つだった。  幼稚園児の息子を送り出すと、夕方までは時間がある。  営業マンである和真は仕事中でも私と会い、唯の愚痴を溢していた。 「真面目過ぎるんだよあいつは。子どもができないのが自分の責任みたいに思っててさ、エッチも楽しくないんだ。考え過ぎんなよって話してるんだけど、そう言うとすぐに泣いてさ。『わたしが悪いの』って。もうそんな顔見たらさ、そういう気分にこっちもならないっていうか」  近くのファミレスでそんな話をする彼は、私を頼っていたようだった。どうすればいいんだ、と暗い顔で相談をする。 「唯は高校のときから真面目だったからね。もっと気楽にやればいいじゃんって何回もアドバイスしてるんだけど」 「そうだよな。前から思ってたけどさ、真知子ちゃんとは気が合うよな。俺、真知子ちゃんと結婚すれば良かったわ」 「ふふふ、本当に? 実は私もそれ考えたことあるよ」  そんなやり取りをした後、私は彼を自宅に呼んで初めてキスをした。そこからはもう汗だくになって、裸で抱き合った。
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