【6】終焉の刻

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〜対策本部刑事課〜 松永裕二を解放し、紗夜が戻った。 困惑する富士本達は、まだ佐々木萌誘拐の件を皆んなには伝えていなかった。 「それはきっと、彼女の偽装だと思います」 佐々木萌と佐藤胡桃の真実、そして(ソン)沐阳(ムーヤン)との関係を、紗夜達が掴んでいることを、佐々木はまだ知らない。 「私から伝えます」 うなずく富士本。 通信機の全発信スイッチを入れる紗夜。 「皆んな、JAPAN-TV から通報があり、佐々木萌が局から消えました。誘拐を装っていますが、恐らく偽装だと思います。行き先は間違いなく会場のはず。今昴さんが、局周辺の監視カメラを調べています」 「昴です。犯人達は用意周到で、周辺の監視カメラはことごとく破壊か、妨害されています」 「破壊されてる経路が、通った経路って事じゃねぇか?」 淳一が伝える。 「淳!あなた、どこにいるのよ⁉️」 「すまない紗夜。止めたのだが、どうしてもと、強引に…」 焦る富士本。 「全く…昴さんは『周辺の』と言いました。つまり、方向は分からないと言うことです」 「あ痛たた…紗夜、あなたの推測通り、本当に彼女がJustice(ジャスティス)の主催者なの?」 入って来た踏み台警官から、ハイヒールを受け取り、紗夜に念を押す咲。 「彼女が幼女誘拐殺人に執着したのは、幼馴染の緑川佐和子が、被害者だと知ったから…」 「それは間違いないわね。特番では、そんな彼女を追い回す記者や、ネット上の非難を、『情報社会の悪』とまで言い放ってたしね」 「それに彼女は、無実の父親が間違った報道で、マスコミや世間から受けた仕打ちを知っています。そしてその為に両親と離され、かなり恨みを抱いているはず」 「確かにそうなんだけど…、だからこそ理解できないのよね。父親を責め立てた東山由紀夫がいる東報新聞に入社し、自らも報道側へ行くかしら?」 「全て復讐の計画の一つで、誰もを(あざむ)くため…ってことか? 彼女は報道側にいたが、マスコミにしては正論派で、むやみに話を盛ったり、荒立てたりはせず、批判もしなかった。俺も正直なところ、信じられねぇ」 「戸澤の言う通りね。報道側にいても、彼女は彼らの様な発言や行動はしなかった。可愛いのもあるけど、その行いが、世の中の人気を集めた一番の理由ね」 妻の土屋も同意した。 「しかし…俺はあまり知らないが、敵の懐中(ふところ)に入れば、攻めも守りも意のままになる…って戦法もあるけどな」 唯一豊川は、分析官と言う職業柄、第三者目線で考えることができた。 「まぁ…あんな()が、そんな大それたことをするとは、考え(にく)いが…」 「やっぱり、恨んではいるとしても、とても殺したりする様には、思えないんだけど…」 皆んなは、病院で松永に囁いた時に紗夜が感じた、彼女の心理を知らない。 「やはり、MVA会員の中で、一部の過激な反乱分子が企てた、テロではないでしょうか?」 普通に見れば、昴のこの読みが正当性を持つ。 しかし、紗夜には伝え様のない確信があった。 (皆んな完全に騙されている。どうすれば…) 統制が取れていないチームでは戦えない。 苦悩する紗夜。 ところがこの問題は、全く予想外の形で、解決することになるのであった。
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