【6】終焉の刻

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〜会場〜 ステージに佐々木萌が現れた。 予告はされていたが、本当に来るとは思っていなかった皆んなが驚き、つい歓声が上がる。 「皆さんこんばんは。佐々木萌です。ご指名なので来ました…が、スタッフの報告では、欠場者は4人」 モニターに、事故現場の写真と共に顔が映る。 顔を見ても、誰か?には結びつかない。 「ゲッ⁉️」「マジか⁉️」 「本当に…死んだのか?」 「はい。約束通り、不運な事故に遭って、4人共亡くなりました。残念です」 「あなた、正気じゃないわ❗️」 耳の通信機は、オン状態のままである。 「ということで、ノルマを達成出来なかった方には、罰則が執行されます。緊張してきましたか?」 咲の声は無視して進める佐々木。 楽し気な態度に、会場の疑念が膨らむ。 「ふざけるな!」 「お前も奴らとグルだな!」 「あんなノルマ、できるわけないだろう!」 「騙したな、この偽善者め❗️」 脱出を試みる者もいるが、ゲートは開かず、鉄パイプの壁はびくともしない。 佐々木がいるステージのガラスを、叩き、蹴り、体当たりしても、無駄であった。 「うるさい…」 佐々木の顔から笑みが消えた。 「うるさい…」 何人かが、その変化に気付き始める。 「うるさい!」 ステージ近くの者は、うつむいた佐々木の顔を覗き込む。 他の者は、まだ(わめ)き続けた。 そして、突然。 「黙れ❗️❗️」 最大音量の声が、会場に響く。 会場を囲んだスピーカーが、張り裂けんばかりに震え、鉄パイプで囲まれた空間が歪む。 耳を塞ぐ者、(うずくま)る者、気を失いかける者。 そしてやっと……静かになった。 TERRA製の通信機には、自動緩衝機能があり、何とか皆んな持ち(こた)えた。 うつむいて、呟き始める佐々木。 「お前たちは、自分のことしか考えられない…いや、考えようともしない無責任な人間だ」 その悲し気で、憐れみに似た響き。 「決して…好きでなったわけではないかも知れない。いつの間にか出来てしまった情報社会の進歩が、人間性を持たない生き物へと進化させているのかも知れない」 突然始まった言葉に、何故か不思議と惹きつけられていく。 「そしてそれは、まだその途上なのかも知れない。自由なつもりで、本当は自由に生きてなどいないことに、いい加減気が付けよ。そんなものに…支配されていいのか?」 問いかけと同時に上げた顔に光る涙。 「インフルエンサー?正体を隠してるお前たちのことなど、誰も見ていないし、興味も親しみも何もない。当然だ。お前たち自ら見せようとしていないから。そんなフォロワー数が大切なのか?そんなものに何の意味がある?」 (この()…自らそれを…その為に?) バリケードを前に車を停め、話を聞く紗夜。 昴も土屋も同じく。 「分かっていても引き返せない。絡みついた無数の糸から抜け出せない。哀れな生き物❗️」 突き刺す様な鋭い視線が、皆んなを見渡す。 「人の不幸や悲しみを知っていながら、見つからない場所で。知られない様に。人間にしかない言葉という最高の文化を、曲げて崩して(けが)して()として。暴力より酷い文字で責め立て、追い詰め、苦しめる。卑怯で残忍なお前❗️」 SNSの中で生きて来た彼ら。 怒りの言葉が、その心臓を完璧に貫いていた。 「見るがいい!」 大きなモニター画面に、彼らの写真と名前。 そして…トータルフォロワー数が表示された。 誰も達成など出来るはずがない。 見るまでもなく、彼らもそれは分かっていた。 「諦め…か。本当に情けない」 画面が変わり、佐々木萌の写真が映る。 そして、数値が表示された。 「152億…って」 ほぼ全ての観ている者が呟いた。 「今夜このステージの、私のフォロワーだ❗️」 会場にいる有名な投稿者達が、言葉を失う。 「これがインフルエンサー。お前たちの数字とは全く違う。有名人だからでもない。隠れもせず偽りもしない、今まで歯を食いしばって生きて来た。そんな私の傷だらけの心と想いを、ただ言葉にしただけのこと」 急に会場にライトが点き、備えられたカメラが、皆んなを映し出した。 「まずい❗️」 車のスピーカーを入れる紗夜。 「無駄な抵抗はやめて、道を開けなさい」 その声がトリガーとなった。 「ガガガガガガガガカ…💥」 トレーラーの影から連射される機銃。 「ガンガンガンガン…」 強硬な特殊合金のボディが、それを跳ね返す。 「行くぜ!」 戸澤の声がし、モニターに車体の図が現れ、対象の武器が点滅する。 「ロックした、モニターのボタンを押せ!」 躊躇いながらも従う紗夜。 「バシュバシュ❗️」 フロント左右の下側から、小型ミサイルが発射された。 「ズドドーン💥💥」 一瞬にして、トレーラーが吹き飛んだ。 「ギュルギュルギュル!」 アクセル全開で、燃える残骸の中を抜ける。 「す…凄い」 同じく突破した昴の声がした。
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