140人が本棚に入れています
本棚に追加
/61ページ
〜会場〜
ステージに佐々木萌が現れた。
予告はされていたが、本当に来るとは思っていなかった皆んなが驚き、つい歓声が上がる。
「皆さんこんばんは。佐々木萌です。ご指名なので来ました…が、スタッフの報告では、欠場者は4人」
モニターに、事故現場の写真と共に顔が映る。
顔を見ても、誰か?には結びつかない。
「ゲッ⁉️」「マジか⁉️」
「本当に…死んだのか?」
「はい。約束通り、不運な事故に遭って、4人共亡くなりました。残念です」
「あなた、正気じゃないわ❗️」
耳の通信機は、オン状態のままである。
「ということで、ノルマを達成出来なかった方には、罰則が執行されます。緊張してきましたか?」
咲の声は無視して進める佐々木。
楽し気な態度に、会場の疑念が膨らむ。
「ふざけるな!」
「お前も奴らとグルだな!」
「あんなノルマ、できるわけないだろう!」
「騙したな、この偽善者め❗️」
脱出を試みる者もいるが、ゲートは開かず、鉄パイプの壁はびくともしない。
佐々木がいるステージのガラスを、叩き、蹴り、体当たりしても、無駄であった。
「うるさい…」
佐々木の顔から笑みが消えた。
「うるさい…」
何人かが、その変化に気付き始める。
「うるさい!」
ステージ近くの者は、うつむいた佐々木の顔を覗き込む。
他の者は、まだ喚き続けた。
そして、突然。
「黙れ❗️❗️」
最大音量の声が、会場に響く。
会場を囲んだスピーカーが、張り裂けんばかりに震え、鉄パイプで囲まれた空間が歪む。
耳を塞ぐ者、蹲る者、気を失いかける者。
そしてやっと……静かになった。
TERRA製の通信機には、自動緩衝機能があり、何とか皆んな持ち堪えた。
うつむいて、呟き始める佐々木。
「お前たちは、自分のことしか考えられない…いや、考えようともしない無責任な人間だ」
その悲し気で、憐れみに似た響き。
「決して…好きでなったわけではないかも知れない。いつの間にか出来てしまった情報社会の進歩が、人間性を持たない生き物へと進化させているのかも知れない」
突然始まった言葉に、何故か不思議と惹きつけられていく。
「そしてそれは、まだその途上なのかも知れない。自由なつもりで、本当は自由に生きてなどいないことに、いい加減気が付けよ。そんなものに…支配されていいのか?」
問いかけと同時に上げた顔に光る涙。
「インフルエンサー?正体を隠してるお前たちのことなど、誰も見ていないし、興味も親しみも何もない。当然だ。お前たち自ら見せようとしていないから。そんなフォロワー数が大切なのか?そんなものに何の意味がある?」
(この娘…自らそれを…その為に?)
バリケードを前に車を停め、話を聞く紗夜。
昴も土屋も同じく。
「分かっていても引き返せない。絡みついた無数の糸から抜け出せない。哀れな生き物❗️」
突き刺す様な鋭い視線が、皆んなを見渡す。
「人の不幸や悲しみを知っていながら、見つからない場所で。知られない様に。人間にしかない言葉という最高の文化を、曲げて崩して汚して堕として。暴力より酷い文字で責め立て、追い詰め、苦しめる。卑怯で残忍なお前❗️」
SNSの中で生きて来た彼ら。
怒りの言葉が、その心臓を完璧に貫いていた。
「見るがいい!」
大きなモニター画面に、彼らの写真と名前。
そして…トータルフォロワー数が表示された。
誰も達成など出来るはずがない。
見るまでもなく、彼らもそれは分かっていた。
「諦め…か。本当に情けない」
画面が変わり、佐々木萌の写真が映る。
そして、数値が表示された。
「152億…って」
ほぼ全ての観ている者が呟いた。
「今夜このステージの、私のフォロワーだ❗️」
会場にいる有名な投稿者達が、言葉を失う。
「これがインフルエンサー。お前たちの数字とは全く違う。有名人だからでもない。隠れもせず偽りもしない、今まで歯を食いしばって生きて来た。そんな私の傷だらけの心と想いを、ただ言葉にしただけのこと」
急に会場にライトが点き、備えられたカメラが、皆んなを映し出した。
「まずい❗️」
車のスピーカーを入れる紗夜。
「無駄な抵抗はやめて、道を開けなさい」
その声がトリガーとなった。
「ガガガガガガガガカ…💥」
トレーラーの影から連射される機銃。
「ガンガンガンガン…」
強硬な特殊合金のボディが、それを跳ね返す。
「行くぜ!」
戸澤の声がし、モニターに車体の図が現れ、対象の武器が点滅する。
「ロックした、モニターのボタンを押せ!」
躊躇いながらも従う紗夜。
「バシュバシュ❗️」
フロント左右の下側から、小型ミサイルが発射された。
「ズドドーン💥💥」
一瞬にして、トレーラーが吹き飛んだ。
「ギュルギュルギュル!」
アクセル全開で、燃える残骸の中を抜ける。
「す…凄い」
同じく突破した昴の声がした。
最初のコメントを投稿しよう!