【6】終焉の刻

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広い倉庫跡地の中心にある会場。 まだ建設半ばのため、シートや足場が取り囲み、建物はあまり見えない。 「まるで(ソン)と同じね」 ヘリからの映像を見ながら、桐谷が呟く。 山本リサ自らカメラを持ち、中の状況を送る。 「山本さん、危険なのであまり無理しなくていいですから」 紗夜が携帯で伝える。 攻撃する気があれば、とっくに撃墜されていることは、考えるまでもない。 「とりあえず私は、彼女のターゲットじゃなかった様ね。確かに彼女の怒りは、同じ業界の私でも共感できる。でも、一般人が裁くのは間違っています。ましてや、命まで。紗夜さん、何とかお願いします」 「ご協力、感謝します」 それ以上、言えることがなかった。 この状況下で、救出の方法は見出せていない。 〜会場内〜 助けと許しを求めて足掻いていた彼ら。 警察との会話を聞きながら、次第に静かになり、自分の犯した行為について考えていた。 「さてと」 その声に、皆んなビクッ!っとなる。 「計画していたマスコミの悪人は、みんな死刑執行完了〜。残るはあと3つ」 (3つ…?) 愉し気な声に、微妙な哀しみを感じた紗夜。 「まずは、SNS上にいる悪人の処罰から」 会場の皆んなが、半歩ステージから退く。 その不安な顔を、カメラは映し出す。 「もちろんお前たちのこと。ここにいる皆んなの書込みや投稿によって…そんな罪もない、死ななくても良い人達が、自ら命を絶った」 もはや、騒めきも起こりはしない。 皆んなそれぞれが、自覚していた。 「身に覚えがあるみたいね…。いくら後悔しても、どんなに謝っても、死んだ人達は戻らないし…お前たちの罪は消えない。罰なき殺人者達に、今ここで死刑を処する❗️」 『死刑』 知ってはいるが、身近に感じてはいなかった。 その言葉が、頭の中で恐怖に変わっていく。 モニターに浮かび上がった数字。 『1:00:00』 説明は要らず、カウントダウンだと理解する。 1時間か…と思い、何故か少し安堵の息を吐く。 が、右の二桁は猛スピードで減り、左の1は一瞬だけで0となった。 「爆破まで、あと50秒。無駄に長いより、諦め易くて楽なはずよ。祈るも自由、愛用のスマホで誰かに連絡するなり、泣き叫ぶなり、好きにしろ。私はこの特殊強化ガラスの中で、その様を配信してあげる。みんな…死ね❗️」 「佐々木❗️」 咲、淳一、戸澤、昴、土屋が一斉に叫ぶ。 「あと…20秒」 佐々木のがなければ、ただただ狼狽(うろた)えたまま、最期を迎えたはず。 それぞれが、祈り、別れを告げ、泣き叫んだ。 「狂ってるわ…」 呟く土屋の横で、じっと映像をみつめる紗夜。 「5、4、3、2…」 その瞬間。 中の者も、外の者も、皆んな目を閉じた。 「⚡️ズバババババッ⚡️」 会場内に爆裂音と無数の閃光。 爆煙で見えなくなり、そして… 「ヅドドドドォゥン💥💥💥❗️」 激しい爆音が轟き、離れて見ていた紗夜達の地面も揺らいだ。 並んだ太めの鉄パイプからは、夜空へ向けて、凄まじい爆炎が立ち昇った。 「クソッ❗️」 運転しながら、悔しがる咲の声。 レインボーブリッジから、その爆炎が見えた。 警察のみならず、配信動画を観ていた者全員が、その衝撃的瞬間に固まった。 「あのヤロウ、本当にやりやがった❗️」 「バカなことしやがって❗️」 「なんてヤツなの❗️」 歯痒さに声が荒い淳一と戸澤、桐谷。 「シッ!静かに!」 冷静に、画像を見つめている紗夜の声。 「まだ…終わっていない」 少しずつ、会場の様子が見えて来た。 意外な情景に、戸惑う皆んな。 「バカな…生きてんのか…」 ぼんやり見えて来た会場の人々に、力なく淳一が呟いた。 閉じていた目を開き、互いの姿を確認する。 しゃがんでいた者は、ゆっくりと立ち上がり、周りを見回す。 「い…生きてる」 「死んでない…生きてるぞ❗️」 次々と上がる歓喜の声。 絶望の涙が、希望に変わった瞬間。 「やはり、のね」 「紗夜さんには、バレてましたか。そんな気はしてました。だから、近付かない様に気を付けてたし」 「紗夜、あんた分かってたの?」 勘弁してよとばかりに呟く咲。 「会場内で弾けたのは、ただの爆竹。鉄パイプの中身は大量の花火…まぁちょっと多過ぎて心配したけどね」 会場の皆んなが、ステージ前に集まって来る。 モニターの『いいね』が一気に増え始めた。 「ほら、皆さん。死ぬよりも生きてた方が、たくさん喜ばれてます。それが正しいSNSの在り方。あなた達は、逃げずにここに来た。冗談だと思ってたのかもしれないけど、来たことに意味があります」 いつもの優し気な佐々木萌がいた。 「あなた達は、本当は悪人ではありません。この情報社会に生きている普通の人間。その流れに(もてあそ)ばれただけ。だから、殺したりはしません。もう2度と、そんなものに引っ張られないで、どうか思いやりを持って生きてください」 怒る者は1人もいない。 彼女の言葉を、その心で受けとめていた。 「さて、逮捕しに行くわよ!」 咲達が到着した。 そのままの勢いで、入ろうとするのを、紗夜が慌てて止めた。 「まだ…終わってはいない。あと2つ」 「何があるって〜のよ、ほら早く」 「咲刑事さん、地雷と罠はあの殺し屋に教えてもらいました。入っちゃダメです」 (あっ…そう言えばそうだったわ💧) 派手な爆発💥で、片付いたと思っていた咲。 「事態は何も変わっていません」 紗夜には、あと一つがまだ分からなかった。 佐々木の言葉を思い返してみる。 (必ずヒントがあるはず…) 「しかし…連続幼女誘拐事件に始まり、空港爆破、そして最後は、まさかこんな復讐劇になるとはな」 (…まさか⁉️) 富士本の言葉で、それに気が付いた紗夜。
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