【7】罰なき殺人 〜終幕〜

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まだ意識はしっかりしている佐々木。 軽く手を振っているのが見えた。 「最期だから…3つ目も教えてあげるわ。紗夜さん、せっかく捕まえた松永裕二を、逃しちゃうんだから…全く。松永久信さんは、確かにロリコンだったけど、とても優しくていい人だったのよ。ろくに世話もして貰えない、可哀想な少女達を、助けてあげていたの。彼なりにね」 「まさか…彼は犯人じゃないって言うの⁉️」 「咲さん、確かに誘拐犯だけど、殺人犯じゃないわ。刑事さん達には、話したはずなのに…」 「そんな⁉️」 土屋が思わず声を出す。 先入観と間違った状況判断。 180度変わった久信の態度に、あの時は呆れるしかしなかった自分に気付く。 (だから2人共、不安定で不可解な心理を…) 今更ながら気付き、後悔する紗夜。 「松永裕二が、警察に全て話すって言うので、話を聞いてたら、あの子供達が、変な名前のガスで殺されたことも喋ってくれたの。私は盗聴して知ってたけど、公表されていないガスの名前をね。間違いないわ」 「殺したのは、松永裕二⁉️」 「マジか…」 「久信さんは、男の子には興味なくて、裕二さんには冷たかったみたい。そのせいで離婚したし。だから裕二さんは、少女達を可愛がる父親が許せなかった。それが殺害の理由よ」 完全に騙されていた警察。 紗夜も、記憶を失って混乱した彼の心理をからは、あまり深読みしないでいた。 「クソッ、あの野郎❗️直ぐに指名手配を!」 「戸澤さん、皆さん。安心していいわ。彼が3つ目のターゲットだから」 「何?どう言うことだ?」 「私は父親の久信さんから聞いて、最初から分かってたから。空港では殺せなかったけど、解放されると知って、ここへ来る前に馬場さんに頼んでおいたの…ボンッ💥ってやつを」 「爆弾を仕掛けたのか⁉️」 「えっ…何?…良く聞こえない。…何だか眠くて…そろそろ、お別れです…ね」 ステージの床から1メートルの高さまで、ガスが充満していた。 「クッ…これは(ソン)沐阳(ムーヤン)が使う神経ガス。脳が全ての活動を停止し、死に至るものよ。10分程で空気に紛れて分解し、跡形もなくなるわ」 CIAで入手していた情報を、桐谷が告げる。 「佐々木❗️」 「佐々木さん❗️」 皆んな、ガラスを叩きながら名前を叫ぶ。 「さよ…なら」 それを最後に、声は途絶えた。 「そんな…」 泣き崩れる紗夜達。 通信機から、松永裕二のマンションで爆発があったと、富士本が伝えた。 約30分後、専門業者によってガラスが切断され、慌てて入った紗夜達の前に、佐々木萌の遺体が、丸くなって横たわっていた。 その姿は、疲れ果てて眠っている様に見えた。 「たった1人で…こんなところで…」 触れようとする紗夜を、咲が引き止め、歯を食いしばり、涙を流しながら首を横に振る。 豊川とその部下、そしてTERRAの医療機関の者が遺体を確認し、係に合図する。 涙の跡を、拭いてあげることも許されず、遺体袋に入れられ、検死のために病院へと運ばれて行く佐々木。 「恐らく…イギリスのVXに似ているけど、ソマン系の有機リン酸化合物の毒ガスね。交感神経系と副交感神経系が狂い、全ての脳機能が停止する最悪なヤツ。容器はTERRAで引き取り、精密検査するわ」 TERRA開発部長兼、医療機関副責任者、IQ240の月島(つきしま)風花(ふうか)が、豊川に報告する。 常盤(ときわ)莉里(りり)と医療大学繋がりの親友で、Virtual(バーチャル) Duo(デュオ) Singer(シンガー)Angel(エンジェル) Live(ライブ)』もやっていて、人気である。 「紗夜さん、咲さん、お疲れ様でした」 状況を察し、軽い挨拶だけして出て行った。 紗夜達は、佐々木を載せた車が見えなくなるまで、無言で見送った。 「さて、帰るぜ皆んな」 「(じん)、待って」 「何だ、咲?」 「来てくれて助かったわ」 「ガチャ」 手錠を掛けた。 「なん…」 「……でなんて言わせないわよ❗️立派な銃刀法違反と重機車両の無免許運転の現行犯よ、全く世話がやけるわ」 「マジでか⁉️勘弁しろよ、なぁ皆んな」 「さて帰りましょうか」 「おい紗夜?」 助けを求める神。 「私は戸澤と松永裕二のマンションへ」 「桐谷、戸澤💦」 「私はSNS上の動画の処理をしないと」 「昴、お前まで見捨てるのか❗️」 「バ〜カ!重機車両に免許が必要なことも知らないんでしょ!」 「咲さん、『バカ』は立派な侮辱罪で、『免許を知らない』は、名誉毀損罪ですよ!」 そこだけツッコミ入れる昴。 「咲さん、花山です。本部(ここ)からでは、何も見えてなかったから分からないが、その神さんとやらに世話になった様だね。よろしく伝えてください」 「いいな、皆んな」 富士本が全員に確認する。 「了解です」 「OK、ボス」 「分かりました」 「そういうことなら、仕方ないわね」 神に掛けた手錠を外す咲。 「ありがと、Chu❣️」 「おっ💦おぅ…またな💖」 ラブラブな警視庁刑事課長と、飛鳥組の組長。 全て通信機が拾っているとは知らず…💧 「富士本さん、今のは何だね?」 「えっ…と…花山総監!今日はご苦労様でした」 「あ…あぁ、お疲れ様。ではおやすみなさい」 (しまった〜⁉️) 今更ながら焦る咲であった。  The killing. 〜罰なき殺人〜 完結❣️
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