花乙女は愛に咲く

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「ロレシオ! この似顔絵の男が黒い布とロープを買っていったと市に居た店主が言っていた!」 アキムがロレシオと合流する。馬を駆って三日目、ロレシオは漸くファトマルの痕跡を手に入れた。 「一人だったのか!」 「そうらしい。急いでいる様子だったと、店のおばさんが言っていた」 この場所はもうかなりハティ領に近い。 港まで行っても協力者が居ないと農民のファトマルは海には出られない。だから尚更、ルドヴィックが言う自治の村が怪しい。 (リンファス……、無事か……。怖い思いはしてないか……、怪我無く元気で居るか……) 見えない敵と、愛しい人の安否が分からないことで、ロレシオは焦っていた。せめて宿に泊まっていてくれればリンファスの様子が分かったのに……。 其処へルドヴィックが馬を駆けてやって来た。 「ちょっと向こうの森の中に野営した焚火の跡を見つけた! 焼けた炭のあたたかさから言って、そんなに前ではなさそうだ!」 吉報だった。では、近くで相手を捕獲できるかもしれない。 「少し休んだらすぐ行こう。ルドヴィック、水を飲んでくれ」 アキムの聞き込みの間に近くの店で水筒を満たしてもらっていた。ルドヴィックに渡すと、ありがたい、と受け取ってくれた。 「こんなことくらいしか出来ない。すまない」 「そんなこと言うな、ロレシオ。 リンファスをひどく扱っていた父親なんだろう? ハンナが、金遣いが荒かったらしいと言っていたじゃないか。 本気で娘を売ってしまうことも考えに入れよう」 ルドヴィックが相手の予測を立てる。 「ハンナが言っていた、行方知れずの花乙女が南方に限られていることも関係しているかもしれない。 ]館に来た花乙女はイヴラや警護員が護衛に着けるが、召し上げられてない花乙女は無防備だ」 「一気に叩ければいいんだが……」 アキムが苛立たし気に親指の爪を噛む。 確かに花乙女がさらわれ続ける事態は止めなければならない。彼女たちには役目があるのだ。 しかし今は、リンファスの救出が先だ。 「近々、王室の会議に掛けよう。だが今の目的はリンファスの救出保護だ」 ロレシオの言葉にアキムが我に返る。 「そ、そうだな。相手が分かってから再度叩くのでも良い」 「すまない、君の花乙女への忠誠心を折ってしまって」 アキムもイヴラとしての怒りを露わにしただけなのだ。 本当なら一気に、連れ去られたかもしれない花乙女を救出できればいいが、海の向こうはロレシオたちにとって未知だ。分が悪い。 「気にするな、ロレシオ。僕らは最初、リンファスを救うために挙手したんだ」 ルドヴィックがロレシオをフォローする。 本当に、三日前に名前を知ったばかりなのに、こんなに頼りになるイヴラだとは思わなかった。ロレシオは再度二人の手を取った。 「ありがとう、感謝する……!」 「さあ、領へ急ごう!」 三人は馬に跨った。
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