花乙女は愛に咲く

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ハティ領には程なくして到着した。 まず問題の村に行く前に最寄りの港で港湾警備隊と連絡を取り、部隊の一部に応援として来てもらえるよう手はずを整えた。 次に件の村を訪れると、その村は確かに領内の外れにあって、荒涼とした大地にぽつんと板壁で覆われた場所だった。 海風がロレシオたちに吹き付ける。ぐるりと囲われた板壁の唯一の穴の前には大きな刀を持った人相の悪い男が二人立っていて、明らかに怪しい。 あんな大きな刀を携えていたら、丸腰の農民は近づきたくないだろう。 ロレシオたちは領内に入ってから、出来たばかりの轍が板壁に出来た大きなドアの向こうに消えているのを確認して、入り口側に回った。 ざりざりと音をさせて砂を踏む。門番をしていた男がロレシオたちに気付き、剣呑な目を向けた。 「なんだ、あんたらは」 口ひげを蓄えた男が口を開いた。ロレシオはアキムが描いた似顔絵を手に掲げて男たちに見せた。 「王都からこの男の行方を追って来ている。この男を知らないか?」 ロレシオの言葉に男はヘヘっと笑って、知らないねえ、と言った。 「この男は箱馬車に乗っていた。領内にある出来たばかりの轍がこの板塀の奥に続いていることを確認している。中を改めさせてもらおう」 「此処から先はお断りだ」 ずいっと前に出たロレシオたちに、もう一人の若い男が、にい、と笑って刀に手を掛ける。 「では、腕づくでも……通させて、もら、う!」 ロレシオは声を上げると、向かってきた若い方が刀を抜いた。ロレシオのサーベルと刃先が合い、ガキン! と音がした。それを合図にアキムとルドヴィックも鞘から刃を抜く。 刀と刀のぶつかる音に、中から人がわっと出てきた。 みんなそれぞれ大太刀を持っており、此処が武装組織なのだということが分かる。 押し寄せる男たちを、三人は払い、切り、なぎ倒した。筋骨隆々の男たちが押し寄せる中、三人は狭い入り口で戦った。 好戦的な大勢の男たちを相手に、狭い場所で戦うことで相手を絞り、的確に倒していった。 板壁で囲われていた中に押し入ると、まだ残っていた賊が次から次へと建物から出てきた。 其処を応援に来た港湾警備隊に任せ、三人は村の奥の海岸沿いの崖に走り寄った。 見ると岩を切り拓いて階段が作ってある。 降りていくと、崖と崖の隙間に洞窟が存在して、隙間は船一隻がやっと通れるくらいの穴だった。 更に降りていくと、此処でも見張りをしていたのか、数人の男たちに出くわす。 しかし彼らの後ろは直ぐ海で、剣で追い詰めると自ら海へと逃げて行った。 「此処は……」 暗い洞窟の中、船が係留してあったと思しき場所には何も泊まっていなかった。 情報が尽きた。そう思った時に、ルドヴィックがロレシオを呼んだ。 「ロレシオ! これは君の花じゃないのか!?」 声にアキムと二人でルドヴィックが何かを拾っている場所へ行くと、其処に散らばっていたのは間違いなくロレシオの瞳の色の花だった。 この多弁の花はリンファスにしか咲いていない。リンファスは此処まで連れてこられていたのだ。 「間に合わなかったか……!」 悔しそうに岸壁に拳をぶつけるアキムの肩を叩くと、ロレシオは先ほど剣を弾き飛ばして、背を壁にぶつけたまま蹲ってた小男の胸倉を掴み上げた。 「此処から出た船は何処へ行った」 首に刃先を突き付けて殺気をみなぎらせて言うと、グスタンだ、という弱々しい声が返った。 「グスタン? アディアと交易のある国だな……。グスタンの、何処の港へ行った?」 「リ……、リグニだよぉ……。あそこの金持ちと取引すんだって言って、お頭が言ってたんだ……」 「取引する品はなんだ!?」 更に詰め寄ると小男はひぃ! と声を上げて、女の子だ、と応えた。 「リグニの花会(ルルディア)オークションで売るんだって、喜んでたんだよぉ……。殺さないでくれよぉ……」 ぶるぶると震えあがる小男の胸倉から手を放し、もう一度岩壁にドカッと打ち付ける。 「お前は重要証言をしたと言って、裁判で弁護してやろう」 ロレシオの酌量の言葉にあからさまにほっとした様子の小男を警備隊に預けて、ロレシオたちは地上へ戻った。 「一旦、王都に戻らないと行けない。理由もなく海を越えてグスタンへ押し掛けるわけにはいかない」 出来れば事情を話して、ウオルフに自らが出向くことへの許しを得なければならない。 三人は『村』を警備隊に任せて、急いで王都にとって返した。
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