1人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
最寄駅の改札を出ると、すっかり暗くなっていた。
「ほんの1ヶ月くらい前までは、今くらいの時間でもまだ明るかったのに……。もう夏も終わりだな」
小声で独り言を呟きながら、祐馬は家路を急ぐ。
ひとり暮らしだから帰っても誰もいないが、オンラインゲーム『妖精パラディース』にログインすれば、仲間たちが待っている。今日は8時半の約束なので、それまでに食事も済ませておく必要があるのだが……。
駅からアパートまでのちょうど中間地点。住宅街に差し掛かる辺りで、事件は起きた。
目の前をフワリと、白いものが横切ったのだ。
「えっ?」
一瞬ドキッとしたが、もちろん幽霊ではない。レジ袋の類いでもなさそうだ。
ならば一体何なのか。足元に落ちたそれを拾ってみると……。
「あっ!」
別の意味でドキッとしてしまう。
真っ白なブラジャーだったのだ。
祐馬は慌てて周囲を見回すが、近くに通行人の姿はなかった。
まずは一安心だ。今の自分は、夜の道端でブラジャーを握りしめた状態。傍から見れば完全に変質者であり、通報されてもおかしくないのだから。
少し冷静になってから、視線を上に向ける。洗濯物が落ちてきたに違いない、と想像したのだ。
「ああ、やっぱり……」
右手のアパートの二階の一室だった。女性物っぽい衣服が干してあり、その傍らには、祐馬と同年代の若い女性が立っている。室内から漏れる明かりにより、彼女の顔が赤くなっているのも見て取れた。
恥ずかしさのあまり、黙ったまま硬直しているようだ。
「あの……。これ、どうしましょう?」
「すいません、今取りに行きます!」
祐馬の方から声をかけると、彼女は動き出してくれた。
アパートから飛び出してくるまで、実際には2、3分だったはず。しかしブラジャーを手にして待つ祐馬には、それが10分にも20分にも感じられた。
最初のコメントを投稿しよう!