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73食目:カロリーなんて怖くない! ⑥
「ねえ、待って!」
琴音は足を止めた。
「なんだよ?」
琴音の手を引く光太はじれったそうに振り返った。
「どうやって空港まで行くつもりなの?」
「もちろん電車か、どこかでタクシーでも拾って……」
「お金持ってるの? その格好で?」
「あ……」
琴音に指摘されて光太は初めて自分の服装に気づいた。空手着のままだった。お金なんて持っているはずもない。
「琴音、タクシー代持ってる?」
「持ってる訳ないでしょ!」
「じゃあ、どうすんだよ?」
「知らないわよ、アンタのせいでしょう。考えもなしに飛び出して!」
「なんだと!」
「なによ!」
琴音と光太は幹線道路沿いの歩道でギャアギャア言い合いを始める。
そこに、冷やかす様な声がかかった。
「よお、お二人さん、相変わらず仲が良いね」
「「どこがですか!」」
ふたりそろって振り返る。だが声の主がいない。アレ?と思って周囲を見回すと、車道の方に軽ワゴン車が止まっていた。窓が開いていて運転席から顔を出しているのは比留間英雄(※47食目あたりに登場)だった。
「どうしたんですか、その車?」
「へへっ、いいだろ。マイカーだよ。家族でドライブできるようにって、ローンで買っちゃったのよ。中古だけどな」
「……」
「……」
琴音と光太は顔を見合わせると頷き合った。
「あの、英雄さん!」
「この車で空港まで連れて行ってください」
「はあ?」
「お願いです。急いでいるんです!」
「ふん、しょうがねえな。おめーらには世話になったからな。新車(中古車だけど)の試運転がてら空港まで送ってやるぜ!」
「ありがとうございます!」
琴音と光太は後部座席に乗り込んだ。
「さあ、しっかりシートベルトを締めとけよ。マリオカートで鍛えた俺のドラテクを披露してやるぜ!」
「え、マリオカート?」
車はタイヤを軋ませ、急発進した。
「行くぜ、オラオラオラオラ!」
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