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亜里砂のそのひと言に、琴音の箸が止まった。
そこで初めて琴音は顔を上げる。
前髪で見えていなかった目が涙で潤んでいた。
琴音はずっと泣きながら焼肉をむさぼり喰っていたのだ。
「うわぁああああ~ん(泣)」
ついに限界に達して、琴音は顔をぐちゃぐちゃにして声を上げて泣き出した。
そんな姉を見つめ、亜里砂はため息をつくと、振り返って店員さんを呼んだ。
「なんでしょうか?」
「追加でカルビ10人前をお願いします」
「はっ?!」
女性店員は唖然とした。
号泣している琴音のことを横目でチラチラ気にしながらも、テーブルの上に重ねられた空き皿を見る。
すでにかなりの量を食べたはずだった。
さらに10人前も食べられるとは思えなかった。
「あのぉ、こちらは食べ放題メニューになっておりますが、食べ残しをすると罰金になります。少しずつ注文した方が良いかと思うのですが……」
女性店員が気を利かせて助言するが、亜里砂は首を横に振る。
「いえ、姉が全部食べるから大丈夫です。ウチの姉はこうなってからが本番なので」
亜里砂はそう言って肩をすくめた。
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