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「あ~、美味しかったぁ。満足、満足~」
琴音は亜里砂と席を立ち、会計に向かった。
シメにアイスも食べた琴音の表情は、晴れやかである。
たっぷり泣いてたっぷり食べたことでストレス発散ができたのかも知れない。
だがそのとき、店の奥の席に陣取っている<あの男>を見かけた。
「……!」
「お姉ちゃん、どうしたの?」
亜里砂が顔を覗き込むようにして聞いてくる。
「ううん、なんでもない」
そう答えながらも、琴音は表情を曇らせていた。
「(まただ……。また<あの男>だ……)」
男はデブだった。
ぷくぷくと丸い輪郭の、人の形状をした物体だ。
そのデブ男が紙エプロンを付け、琴音がさっきまで食べていたのと同じ食べ放題メニューの焼肉を汗だくになって猛然と食べていた。
「……」
琴音が気持ち悪い物を見るような目で見ていたら、ふと目が合ってしまった。
ニヤッと肉の油でギトギトの口元が笑ったような気がした。
「!!!」
琴音は慌てて目をそらした。
これで<あの男>を見かけるのは5度目だった。琴音が行く先々に、あのデブ男がいる。
「(もしかして私をストーカーしているんじゃ?!)」
あー、ヤダヤダ。
琴音は寒気を覚えて身震いすると、急いで会計を済ませて店を出た。
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