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時刻は午後9時過ぎ。店を出て商店街を抜けると、人気のない住宅街の道である。
琴音は亜里砂を連れて夜道を自宅に向けて歩いていた。
その背後に足音が近づいてくる。
「(まさか、あのデブが追いかけてきた?!)」
琴音は隣の亜里砂の手を掴む。
「お姉ちゃん?」
訝しがる妹の手を引き、足を速めた。すると背後の足音も早くなる。
「(間違いない。私たちを追って来ている!)」
琴音は、角を曲がるとすぐに脇にあるマンションの植え込みの中にしゃがみ込んで身を隠した。ストーカーが追ってくるのを待つ。
「ねえ、どうしたのよ!」
いまだ事態が飲み込めない亜里砂が聞いてくる。琴音は人差し指を口元に当て、静かにするように合図した。
「しーっ! ストーカーよ」
「えっ、ストーカー?!」
追いかけて来たストーカーが角を曲がってきた。
その物音に気付き、慌てて琴音と亜里砂は口をつぐむ。ふたりは植え込みの影から相手を見た。
やはりあのデブ男だった。琴音たちを見失い、辺りを見回している。
「亜里砂はここにいて、私がいく」
「え、でも……」
亜里砂が心配そうに琴音を見る。
琴音は妹を心配させまいと微笑むと、大声を上げながら植え込みから飛び出した。
「うりゃああああああ!」
拳を握りしめて、デブ男を殴りかかる。
だがーー
ーーぽよん、ぽよん……ーー
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