1食目:焼肉食べ放題の涙

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「……え?!」  コンニャクでも叩いたような感触があってはね返された。デブ男は平然と立っている。 「くぉのお!」  琴音は再び殴る。  殴るのは大きく突き出たお腹であった。  だがそこには分厚い贅肉がある。  ぽよん、と贅肉が揺れるだけであった。 「……!」  琴音は一瞬、怯むがすぐに気持ちを立て直した。 「このストーカー! これ以上、私に付きまとわないでよ!」  叫ぶと、背伸びしてデブ男の頬に平手打ちした。  頬の贅肉が揺れる。  今度もあまり効いてなさそうだったが、お腹を殴ったときよりは手応えがあった。  デブ男の身体が、ほんの少しだけぐらついた。そのときデブ男の手からカードのようなものが落ちた。 「(……ん? これは?)」  気付いて、琴音は拾う。  それはさっき食事をした『焼肉 牛魔王』のスタンプカードだった。  スタンプカードの名前の欄には『大島琴音』と書いてある。 「お前がそれをレジに忘れていったからからさ。届けてやろうと思って、追いかけて来たんだよ」 「えっ、そうなの?」 「スタンプ全部集めれば、『特上・牛魔王セット』が無料だからな。あとスタンプふたつじゃないか。それをなくしたら大変だと思って」  デブ男はそう言って顎の肉を揺らして快活に笑う。  琴音に殴られ、平手打ちされたことなど、まるで意に介していないようだった。
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