63人が本棚に入れています
本棚に追加
「……え?!」
コンニャクでも叩いたような感触があってはね返された。デブ男は平然と立っている。
「くぉのお!」
琴音は再び殴る。
殴るのは大きく突き出たお腹であった。
だがそこには分厚い贅肉がある。
ぽよん、と贅肉が揺れるだけであった。
「……!」
琴音は一瞬、怯むがすぐに気持ちを立て直した。
「このストーカー! これ以上、私に付きまとわないでよ!」
叫ぶと、背伸びしてデブ男の頬に平手打ちした。
頬の贅肉が揺れる。
今度もあまり効いてなさそうだったが、お腹を殴ったときよりは手応えがあった。
デブ男の身体が、ほんの少しだけぐらついた。そのときデブ男の手からカードのようなものが落ちた。
「(……ん? これは?)」
気付いて、琴音は拾う。
それはさっき食事をした『焼肉 牛魔王』のスタンプカードだった。
スタンプカードの名前の欄には『大島琴音』と書いてある。
「お前がそれをレジに忘れていったからからさ。届けてやろうと思って、追いかけて来たんだよ」
「えっ、そうなの?」
「スタンプ全部集めれば、『特上・牛魔王セット』が無料だからな。あとスタンプふたつじゃないか。それをなくしたら大変だと思って」
デブ男はそう言って顎の肉を揺らして快活に笑う。
琴音に殴られ、平手打ちされたことなど、まるで意に介していないようだった。
最初のコメントを投稿しよう!