第1話

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 ()(おり)の祖父母の時代。  テクノロジーの進化はとどまることを知らず、それに伴い世界もまた果てしなく進化していくものだと思われていたらしい。  けれども、そうした時代は長くは続かなかった。  頭のいい研究者たちがシミュレーションしていたよりもだいぶ早く技術革新は頭打ちとなり、世界は「今の生活様式」から大きく変わることはなくなった。  それが、佳織が生まれる少し前のことだ。 「もっとすごい未来が待っていると思っていたのにねぇ」  そうボヤいたのは、変革と停滞、どちらも体験した母方の祖母だったか。  とはいえ、佳織としてはこの世界に特に不満はない。変化を望む理由がないし、そもそも「目まぐるしく変わる世界」というものが想像できない。  それに「変わらない」ということは、これが「最善だ」という可能性もある。もし、最善ではないのなら、なにかしらの「改善しよう」という動きが起きていたはずだ。  けれども、そのような動きはない。あるとすれば、せいぜい小さな不満を解消するためのマイナーチェンジ程度だ。  つまり、多くの人々は、この停滞した時代を良しとし大きく変わることは望んでいない。佳織もまたそのひとりであり、30年近く生きてきたこの世界はこのまま形を変えることなく一生続くのだろう、と漠然とながらも信じていた。  だが、世界はやはり「変化するもの」であったらしい。  停滞したテクノロジーの代わりに変化しはじめたのは、まさかの「人類」。  ただ、その「変化」は、にわかには信じがたいようなものだった。 ──「最近の10代の子どもたちは、前世の夢を見るらしい」  3年前、初めてその話を聞いたとき、佳織は特に気にも留めなかった。  「前世」「生まれ変わり」「魂の再生」──そうしたものは、多感な年頃の子どもたちの心をくすぐる、甘いお菓子のようなものだ。つまり、そうした発言は一時的なものに過ぎず、大人になるにつれて目を覚ますはず。  ところが、「前世の夢を見た」と主張する子どもたちはどんどん増え続け、やがてトラブルを起こすようになった。そのため、社会としても無視できなくなり、マスコミなどでも大きく取り上げられるようになった。  不思議なことに、「前世の夢をみる」と主張する者の多くは、佳織よりひとまわり以上若い世代ばかりだ。  今の21歳以下──3年前は18歳以下の子どもたちばかり。そのため、こうした現象は「Uー18症候群」と呼ばれていた。
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