第4話

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 亨は、机の下から飛び出しそうになった。  それを寸でのところで堪えたのは、写真をアップしたと思われる生徒が、耳障りな笑い声をあげたからだ。 「なにそれ、どこからバラ巻くつもり?」 「そこは……まあ、3階の教室からとか?」 「それだと通行人が拾うだけじゃない?」 「皆が帰る時間を狙えばいいだろ」  心臓が、ドクドクと大きな音をたてている。あまりにもうるさすぎて、下世話な会話に夢中になっているはずの彼らにまで届いてしまいそうだ。 「あーでも僕、似たようなことはすでにやってるんだよね」 「え、マジで? いつ?」 「前世で」 「そっちかよ!」 「自称『親友』の浮気現場を押さえて、証拠写真をバラまいてやったの。そいつの、結婚式の披露宴会場で」 「マジで!? 怖っ」  そのわりに、ふたりは声をあげて笑っている。  亨は、混乱した。今の会話のどこが笑えるのか、彼にはまったく理解できなかった。 「で? その『自称親友』はどうなったわけ?」 「それがさー、親友は『結婚式を台無しにしやがって』って、僕にキレまくってたんだけど、そいつの結婚相手──つまり、浮気された新婦がね」  彼は、そこでまた堪えきれないようにクスッと笑った。 「披露宴会場の控え室から、飛び降りちゃってさー」 「……え、それって自殺……」 「そう、しかもウエディングドレス姿のまま! ──ね、びっくりだよねぇ」  ガタンッ、とものすごい音がした。  それが自分のたてた音だと──机の裏にひどく背中を打ちつけた音だと認識することなく、亨はまっすぐ彼らに向かっていった。  それまで下世話な笑い声をあげていたふたりが、驚いたようにこちらを見ている。  逃げだす気配はない。おそらく、動揺しすぎて動けないのだろう。  これ幸いにと、まずは大柄なほうに拳を振るった。それから、小柄な、ひ弱そうな男子生徒の頬を、同じ勢いで殴りつけた。
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