第1話

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 厄介ごとはごめんだ。意味不明な主張に巻き込まれたくはない。  なのに、翌日もその翌日も少年は佳織の前に現れた。 「なあ、サクラ──」 「……」 「じゃなかった。先生……佳織先生!」 「……」 「えっ、無視? だったら、やっぱサクラって呼ぶ──」 「それはやめて」 「あ、やっと反応した」 満面の笑みを浮かべて、少年は佳織のあとをついてくる。 「前世でもこんな感じだったよなぁ。サクラは歩くのが速くて、俺はいつも後ろをついていって」 「……」 「でも、ごはん食べに行くときだけ、俺のほうが歩くの速いの。だって俺、前世も今も食べるの大好きだから!」 「……」 「そういえば、サクラの一番好きな食べ物って今でもアレ? 味噌汁にたまごが入った……ええと、かき玉汁?」 思わず、足を止めてしまった。 「あ、正解?」 「……自習室は右です。早く行きなさい」 「えーっ、俺まだサクラと話がしたいのに……」 「私は、話すことなんてないから」  あえてキツい口調で言い放つ。顔や態度にも、はっきり「迷惑だ」と示しているつもりだ。  なのに、少年はしきりに首を傾げている。 「じゃあ、どうすればいっぱい話できる?」 「何をやってもできません」 「なんで? 前世では毎日話してたのに?」  ああ、まただ。 「何度も言ってるけど、前世なんてものはありません」 「あるよ。だって俺、毎日夢で見てるもん」 「そうよね、結局はただの夢の話──」 「ただのじゃない」  少年の眉間に、はじめて深くしわが刻み込まれた。 「特別だから。前世の夢って」 「そんなの……」 「毎晩毎晩サクラの夢。この1年間ずっとサクラのことばかり」  それが、他の夢と同じだと思う──?
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