10人が本棚に入れています
本棚に追加
厄介ごとはごめんだ。意味不明な主張に巻き込まれたくはない。
なのに、翌日もその翌日も少年は佳織の前に現れた。
「なあ、サクラ──」
「……」
「じゃなかった。先生……佳織先生!」
「……」
「えっ、無視? だったら、やっぱサクラって呼ぶ──」
「それはやめて」
「あ、やっと反応した」
満面の笑みを浮かべて、少年は佳織のあとをついてくる。
「前世でもこんな感じだったよなぁ。サクラは歩くのが速くて、俺はいつも後ろをついていって」
「……」
「でも、ごはん食べに行くときだけ、俺のほうが歩くの速いの。だって俺、前世も今も食べるの大好きだから!」
「……」
「そういえば、サクラの一番好きな食べ物って今でもアレ? 味噌汁にたまごが入った……ええと、かき玉汁?」
思わず、足を止めてしまった。
「あ、正解?」
「……自習室は右です。早く行きなさい」
「えーっ、俺まだサクラと話がしたいのに……」
「私は、話すことなんてないから」
あえてキツい口調で言い放つ。顔や態度にも、はっきり「迷惑だ」と示しているつもりだ。
なのに、少年はしきりに首を傾げている。
「じゃあ、どうすればいっぱい話できる?」
「何をやってもできません」
「なんで? 前世では毎日話してたのに?」
ああ、まただ。
「何度も言ってるけど、前世なんてものはありません」
「あるよ。だって俺、毎日夢で見てるもん」
「そうよね、結局はただの夢の話──」
「ただのじゃない」
少年の眉間に、はじめて深くしわが刻み込まれた。
「特別だから。前世の夢って」
「そんなの……」
「毎晩毎晩サクラの夢。この1年間ずっとサクラのことばかり」
それが、他の夢と同じだと思う──?
最初のコメントを投稿しよう!