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「……恋をした側が、能動的な表現をすればいいのではないでしょうか。例えば、“私の心をあなたにあげたい”とか。……でも、これだとなんだかロマンチックじゃないですよね。自己完結している気もします。恋愛って、双方が納得して初めて両想いとして成立しますし……お互いがお互いに恋をして幸せを得ることで完成されるものだと私は思っているので。自分が好きになれれば相手はどうでもいい、という言い方になってしまうと少し身勝手に聞こえるかも……」
そういう考え方もあるか。僕はふんふと頷いて、じゃあ、と提案する。
「“僕は君の心を輝かせたい”、なんてどう?」
厨二病くらい表現かもしれない。でも、この時の僕は、結構ぴったりな言葉だと思ったのだ。
相手の心を、キラキラとしたもので満たしたい。幸せにしたいと思うのは、相手を想うからこそ。
「面白い表現ですね。キラキラしていて、とても前向きで良いかもしれません。恋愛かどうか、相手にすぐ伝わらないかもしれないのが難点ですけど……好意は伝わるのではないでしょうか」
「あ、気に入ってくれた?」
「はい」
「そっか、それじゃあ」
くすくすと笑う彼女は、今日一番可愛い顔をしている。僕はちょっと跳ねる心臓を抑えつけて、思い切った一言を口にしたのだった。
「“僕は笹原さんの心を輝かせたいんですけど、君はどう思いますか?”」
ああ、今日だけで発見がいっぱいだ。
嫌なことをはっきりと言える強い顔。
真剣に何かを考え込む顔。
楽しそうにくすくすと笑う顔。
それから――きょとん、と目を丸くして固まった顔。
平凡で、地味で、何の取り柄もない僕だけど。それでも僕の心はとっくに彼女に明け渡してしまっているわけなので――できれば僕も、彼女の心をキラキラさせてみたいのだ。
恋はどっちかが、泥棒するものでもされるものでもきっとないから。
「え?……え、え?」
まったく僕の視線に気づいてなかったらしい渚は、ぽかーんと口を開けたあと、茹蛸のように顔を真っ赤にして固まった。高嶺の花すぎて、これは今まで誰も告白できなかったパターンだろう。明らかに、自分が誰かに恋をされるなんて思ってみなかった純粋無垢な少女の顔だ。
「もう決めたから」
僕もなんだか恥ずかしくなって、ちょっと照れながら彼女に宣戦布告させたのだから。
「もっともっと、僕が君をキラキラさせてみせるから。覚悟しておいてよね」
僕が忘れることができないのと、同じくらい。君が僕を、覚えてくれるようになったら嬉しい。
恋の勝負はまだ、始まったばかりなのだから。
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