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君のハートを××させたい!
笹原渚は変わり者である。そして、とってもよく目立つ。同じクラスの僕が、常に彼女の一挙一動に目を配ってしまうくらいには。
例えば、この平凡な公立中学には見合わないほどお金持ちの家柄。お父さんは大手商社の偉い人らしい。本人はお金持ちを鼻にかける様子はないが、服はお洒落だし髪はさらさらだしとびきり美人だし、常に丁寧な言葉遣いで喋るのでどこまでも育ちの良さが滲んでいる。
また、言動という意味でも結構変わっている。こういう、いかにも深窓のお嬢様っぽい女の子は、お上品で大人しいと相場が決まっているものではないか。大和撫子、というやつだ。いつも笑顔で“おほほほほ”とか微笑んでそう、というのは僕が古い漫画を読みすぎているだけなのかもしれないが――とにかく彼女はそういうイメージからはかけ離れているのである。
というのも、嫌なことははっきり嫌という。
ブチギレると、口よりも手よりも先に足が出る。この間廊下で見かけた光景なんかすごかった。
「きゃあっ!?」
よそのクラスの少女の一人が、渚に思いきり足を踏まれて痛がっていた。何が起きたんだと思えば、渚が後ろにうちのクラスの別の女の子を庇っている。しかも、その女の子は涙目。どうやら、少女が彼女によからぬことを言って、渚をキレさせたということらしい。
「取り消しなさい」
渚はいつもより三割増し低い声で、うずくまった少女を見下ろしていた。モデルみたいに背が高いのと、ものすごい美人なのでそりゃあもう威圧感がハンパない。
「人が本気で打ちこんでいるものを馬鹿にして、みっともないと思わないんですか。恥を知りなさい」
で、それを見た僕はと言えば。
――やっべえ……かっこいい。
ちょっと胸を、きゅんきゅんさせてしまっていたのだった。文字通り、少女漫画のヒロインのごとく。
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