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『ラブ&ピース』の近くにあるコインパーキングに車を停め、澪がオフィスに星野を案内する。ビル横の鉄階段を上がり、2階のドアを開け中に入って澪が声をかける。
「桜…?」
西原の返事はない。
「岳、ちょっと待ってて…」
「あぁ…」
その場に星野を残し、澪は出入り口から中に進みオフィスを覗く。
「桜、いる?」
もう一度声をかけると、応接室のドアが開き西原が出て来た。
「澪、お疲れ。星野さんは?」
「岳? いるよ。岳」
澪が振り返って星野の顔を見て呼んだ、その時。
「あっ」
西原の声が聞こえた後、澪に勢いよく覆い被さるように抱き着く大きな体。澪の耳元で囁く。
「澪さん…」
その声は秦の声で、澪が視線を秦に向けると同時に、星野が秦の腕を掴み澪から引き離す。
「俺の澪に触れるな」
澪を片腕に抱き寄せて、星野が低い声で秦に凄む。
「あんたは…」
秦は星野を見て驚いた様子で呟くように言った。星野と秦がニラみ合い沈黙が流れる中、西原が2人の間に割って入る。
「話は今から聞くから、取りあえず部屋に入って座って。今コーヒーを淹れるわ」
3人は応接室に入り、奥のソファーに星野を座らせ、澪は隣に座った。秦は澪の向かい側に座り、澪をジッと見つめて話す。
「澪さん、久しぶりだね。会いたかったよ」
秦が微笑んでそう言うと、澪が答えるより早く星野が答える。
「俺も久しぶりなんだが、憶えているか?」
星野がそう尋ねると、秦はすぐに答えた。
「あぁ、あんたはあのBARのカウンターにいた人だろ」
(えっ…憶えているの? 憶えているもの? 知り合いでもないのに?)
澪は店に入った時に、カウンターにいる星野に気づいた。だが秦は店に入るとマスターに挨拶をして、そのままテーブル席に向かったのだ。その時には気づくはずもない。
「やっぱり憶えているんだな。あの時、あの状況で俺と目が合ったもんな」
「えっ…」
星野の言葉に澪は耳を疑った。澪が女に酒をかけられ罵声を浴びたのは元々、秦を助ける為だ。そんな状況にも関わらず、澪をかばう事もなくカウンターに座っていた星野と目が合ったという。
「あの修羅場の状況で、一番冷静だったのは、君だろ?」
(えっ……どういう事…)
星野と秦がニラみ合っている時、トレーにコーヒーカップを乗せて西原が応接室に入って来た。
「ちょっと、待って下さいよ。星野さん…」
「あ、すみません。つい…」
西原がテーブルにコーヒーカップを置いて、それぞれシュガーとコーヒーフレッシュを入れてコーヒーを飲み落ち着く。
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