プロローグ

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西原はクリアファイルから書類を取り出し、女性に見せながら説明を始める。その横で澪はカップを持ち、ゆっくりとコーヒーを飲んでひと息つく。 「これまでの経緯をこちらに記載させて頂いております。基本の料金はこちらで、事前にお伝えしていた通り、少々変更がありましたので、その際の追加の料金はこちらとなります」 「はい…」 「今後、彼から連絡や接触などあった場合、ご連絡頂ければこちらで対処させて頂きます。場合によっては法的処置を行いますので、その際はこちらからご相談させて頂きます」 「はい。よろしくお願いします」 西原が説明を終えると、女性が鞄から封筒を取り出し、中から現金をキャッシュトレーに乗せた。西原は現金を取り、確認をして女性に言う。 「お釣りと領収書をご用意致しますので、少々お待ち下さい」 そう言うと立ち上がって、西原は応接室を出て行った。 ここは親友の西原が経営する探偵事務所『ラブ&ピース』という会社だ。表向きは人探しや調査などの依頼を受ける、固い探偵事務所になっている。だがその裏では『別れさせ屋』をしている。 澪は親友の西原に頼まれ、アルバイトで仕事を手伝っている。本業は普通のOLだ。 町田 澪、25歳。 大学卒業後『 starry() sky() 』という大手総合商社の営業部に営業事務で就職し、3年目になる。大学時代の親友、西原 桜が大学を卒業後『ラブ&ピース』という会社を立ち上げ、手伝いを頼まれたが一度は断る。だが熱心に話す西原に根負けし、澪はアルバイトとして手伝う事にした。 『ラブ&ピース』での澪の仕事は、ズバリ恋人同士を別れさせる事。依頼人の恋人、通称ターゲットに自然な出会いで近づいて、依頼人の希望する別れ方に導き、別れさせるのだ。 依頼人はほとんどが女性だが、時々男性もいて彼女と別れたいという依頼には、男性社員が対応に当たる。『ラブ&ピース』には澪の他に、女性社員が2人と男性社員が1人在籍している。 というのも、表向きの探偵事務所としての依頼もあるからだ。人探しや人材調査が主で、浮気調査や結婚詐欺かどうかの調査なども依頼が来る。そこから、裏の別れさせ屋への依頼へ発展する事もある。 依頼を受けるかどうかは、社長である西原が詳しく話を訊き決定する。犯罪に加担していないか、ターゲットが不利になるような事がないかなど、きちんと調査した上で依頼を引き受ける。 『ラブ&ピース』の裏の仕事は、あくまでもターゲットに悩まされ、被害を受けている事が前提だ。出来るだけ穏便(おんびん)に縁を切りたいという依頼者は多く、依頼のほとんどはごく自然に別れさせる事が出来る。だけど中には、しつこい相手が存在し、社長である西原が法的処置を取り被害を訴える事もある。 澪達にも条件がある。ターゲットと親密な接触となる、キスやセックスは禁止。手を繋いだりハグは一応許されてはいるが、本人達に任されている。そして常に、超小型ボイスレコーダーを所持している。キスやセックスを強要された場合などは、局部を蹴り上げてでも逃げろと言われ、無理な場合は決められた暗号を言い知らせ、その後の録音が証拠となるようになっている。 西原が応接室に戻って来て、女性に釣りと領収書、依頼の明細を封筒に入れて渡す。女性はそれらを受け取り鞄にしまって、3人はコーヒーを飲みながら話をする。澪は西原と共に女性を出入り口まで見送り、女性は深く礼をして笑顔で帰って行った。扉を閉め、2人は部屋の中央、オフィス部分に戻り話す。
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