プロローグ

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「お疲れ。やっと終わったわね」 西原が自分のデスクに戻り、澪に言う。澪は鞄を置いた自分のデスクの椅子に座り答える。 「ほんとだよー今回の依頼はきつかったぁ。だってさ、どれだけ()けても手を掴まれて抱き締めて来るんだもん。挙句にキスまでしてこようとするし…」 「そこはさぁ、澪なら上手くかわせるって思ってるから、任せてるんだよ」 「まぁ、何とかかわして逃げるけどさ」 「でしょ。でも、彼女喜んでたね。浮気を知って、注意しても態度を変えない。別れ話をしても、ろくに話も聞かないって泣いてたもんね」 「うん。相当、彼女苦労してたね…」 「でも、もう終わったね。あっ、携帯とレコーダー、回収しとく」 澪は鞄とポケットから、仕事用の携帯とボイスレコーダーを取り出し立ち上がって、西原のデスクに渡しに行く。 「あっ、そうだ、澪」 「ん…?」 「早速なんだけど、次の依頼、頼める?」 「えっ、もう?」 西原がそう言って、次のターゲットの情報をまとめた紙を澪に差し出す。澪は紙を受け取って、左端にホッチキスで止められたターゲットの写真を見て言葉を失った。 「次の依頼は、今のところ人材調査よ。いつもなら他の子達に頼むけど、今回は澪、あなたに頼むわ」 そう話す西原の顔を見て、澪は呟く。 「この人が……次のターゲット…?」 「そうよ。澪はよく知ってるでしょ。調査するには、澪に頼むのが一番いいと思って…」 「そ、そうだけど……」 そのターゲットの男性は、星野(ほしの) (がく)30歳。澪の本業である『starry sky』の営業部長だ。澪の直属の上司になり、毎日顔を合わせる。西原がいう通り、星野の事はよく知っている。 「取りあえず1ヶ月間、動向を探って。営業に出ている時は見れないと思うから、会社にいる時や仕事を終えた後、家に帰るまでの行動を報告して欲しいの」 「私じゃない方が……いいんじゃ…ないかな…」 澪は資料を西原に差し出し、恐る恐る言った。 「他の子だと社内にいる時の事は分からないでしょ。営業に行く時に変な事はしないと思うし、何かあるなら社内か家に帰るまでが怪しいんだから」 「……はぁっ……うーん…」 澪はどうしても依頼を受ける気になれない。それもそのはずで、親友である西原にも話していないが、澪は星野に好意を寄せているからだった。好意を寄せている相手が調査ターゲットというだけでもショックだが、それを調査するのが自分だという事に澪は首を縦に振れない。 「一応、言っておくけど、依頼は男性よ。あくまでも信頼出来る人かどうかの調査だから。上司が調査ターゲットっていうのは、ちょっと複雑な心境とは思うけど、仕事は簡単なはずよ」 「うん、まぁ、そうだよね……分かった、やってみる」 「ありがとう。じゃ、月曜日から1ヶ月間、調査開始ね」 「うん…」
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