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次のターゲットの資料をもらって、西原に車でマンションに送ってもらい澪は自宅に帰った。資料を挟んだクリアファイルをリビングのローテーブルに置き、携帯を置いて寝室の隣にあるドアを開ける。
広めのウォークインクローゼットになっていて、左右にズラリと様々なタイプの服を吊るしている。突き当りの棚には鞄や靴を並べ、入口の右の棚には、アクセサリーや小物を置いている。澪は着ていたワンピースを脱ぎ、左側に置いたポールハンガーに吊るした。
「明日、クリーニングに出しとこ…」
玄関で土や汚れを拭き取ったお気に入りのヒールを棚に戻し、鞄の汚れを拭いて棚に並べる。アクセサリーも綺麗に布で拭き、棚に戻した。
ここにある物は全て裏バイトである『別れさせ屋』の衣装や小物で、澪の私物だ。『別れさせ屋』のバイト代は案件によって金額が変わり、身の危険度が増すほど金額は高くなるが、澪は身を汚してまで稼ぐつもりはない。
裏バイトの依頼があった月は、本業であるOLの給料の倍の給料が振り込まれる。ほとんどはそのまま貯金となるが、少々高めの家賃の補填や衣装代に使っている。
下着姿でクローゼットを出てドアを閉め、そのまま浴室に向かう。シャワーで汗を流し部屋着に着替えた澪は、キッチンでお湯を沸かしドリップコーヒーを淹れ、カップを持ってリビングへ行く。
ローテーブルにマグカップを置き、資料が入ったクリアファイルを取ってソファーに腰掛けた。中から資料を取り出し、写真を眺める。
(星野部長がターゲットって……まさかこんな日が来るとは……はぁっ、やっぱりカッコいいなぁ。スーツ姿が凛としてて、いつもカッコいい…)
澪は写真を見てニヤニヤし、写真をめくって左角を少し折り、ローテーブルに資料を置き、マグカップを手に取る。コーヒーを啜り、資料に目を通し始める。
「えっと、星野 岳30歳。6月24日生まれって、えっ、来週…」
とっさに澪は壁に貼ったカレンダーを見る。今日は6月21日金曜日、24日は来週月曜日になる。
「来週月曜日に、31歳の誕生日なんだ。知らなかった…」
澪は資料に目を戻し、内容を見る。
「大学を卒業後、父、星野 浩太郎が経営する『starry sky』に入社。営業で経験を積み、マーケティングや商品企画、宣伝など携わり、5年前、営業部長に就任…」
(そうだった。入社した当時、聞いた事がある。社長の息子で、次期社長になるはずなのに、なぜ営業で走り回っているのか不思議だって…)
澪から見た星野は、社長の息子という顔を一切見せず、仕事を選ばない。いちから営業をしていたせいか、雑用ですら自分でしようとする為、澪が星野を注意したくらいだった。
≪雑用なら私がします。部長は他にする事があるでしょ。私で出来る事なら私がしますから、言って下さい≫
≪そうか……分かった。今度からは町田に頼む事にする。ありがとう≫
それからは事あるごとに、星野は澪を呼ぶようになった。他にも営業事務は多く在籍しているが、星野はなぜか澪を呼ぶ。澪は注意した手前、断る事は出来ず星野が呼ぶとすぐに駆けつけた。そうしている間に、澪は徐々に星野に惹かれていく。
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