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6月24日の朝、岳の31歳の誕生日。朝のミーティングを終え、岳がパソコンで仕事を始めると視線を感じ、ふと感じた先へ目を向ける。町田と視線がぶつかり、とっさに目を逸らされた。
(ん…? 今、町田と目が合った…よな…)
岳はそう思ったが、町田は既に仕事を始めている。営業達と話した後、古谷と何やらパソコンを覗き込み話している。岳はパソコンで仕事をしながら、横目でチラチラと2人の様子を見ていた。
(湊……アイツ…また……あぁ、近いって……町田、湊には教えなくてもいいんだよ……ほっといても出来るから…)
その時、上着のポケットに入れたプライベート用の携帯が振動で知らせる。父親からメッセージが届いたのだ。プライベート用は、親族との連絡のみで着信音は消し振動で分かるよう設定している。日常的に使う携帯は、社内と取引先との連絡手段になっている。
親族である父親と古谷は、両方の番号やメールアドレスを知っていて、内容によってきちんと使い分けている。古谷が町田の偵察の報告をするのは、プライベート用だ。
父親からのメッセージ【ちょっと部屋に来てくれ】を見て、岳はパソコンの画面を閉じ、立ち上がってオフィスを出る。エレベーターに乗り7階の社長室に向かった。社長室に入って少し話をしていると、プライベート用の携帯が震えた。
「あぁ、父さん、ちょっと待って…」
(父さんと会っているのに……湊か…)
古谷からのメッセージを見て、岳は驚く。
【町田さんが、岳のあとを追った。今、7階で岳が出て来るのを待っている】
岳はすぐに返信する。
【何で、町田が俺を追っているんだ?】
【俺にも分かんないけど、岳が出たあとトイレに行くって出たのに、エレベーターに乗ったから、俺も追ったんだけど】
【分かった。俺ももう戻る。湊も戻っていい】
【了解】
(どういう事だ? 町田が俺をなぜ?)
「父さん、俺すぐに戻らないと」
「そうか…」
社長室に来たばかりだったが、古谷の報告で岳はすぐに社長室を出る。もしかしたら、どこかで町田が会話を聞いているかも知れない。岳は平常心で自然な会話をして、エレベーターの前に立った。1台が1階へ下りている。あとの2台は動いていない。
(なぜ1階……あぁ……なるほど…そういう事か…)
岳がオフィスに戻ると町田の姿はなく、デスクに座っている古谷に目で合図を送る。しばらくして町田がオフィスに戻って来た。
昼休憩のチャイムが鳴って、古谷が町田を昼休憩に誘っている。岳は慌てて町田を呼んだ。
「町田! ちょっといいか?」
岳は町田の前に行き、尋ねる。
「昼は食堂か?」
「は、はい…」
「じゃ、ちょっと付き合え。話がある」
「分かりました…」
岳は古谷をチラリと見ると、古谷は悪びれる様子もなくニヤリと笑った。
(湊のヤツ、面白がってるな……ったく……でも、町田を昼に誘えた…)
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