順風満帆なはず

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「湊君っ!」 澪が大きな声で呼んでも、古谷は男にまたがり左手で胸ぐらを掴み、右手の拳を男の顔に振り下ろす。 「湊君っ! もういいよ!」 澪は目に涙を浮かべて古谷に駆け寄り、古谷の前に回りこんだ。すると古谷は男を地面に押しつけ、右手の拳を男の顔へ真っ直ぐ振り下ろす。 「いいか、二度と彼女に近づくな。次は、こんなもんで済むと思うなよ」 男の顔に顔を近づけ脅すように凄む古谷の拳は、男の顔のすぐ横の地面に打ちつけられていた。男の顔は腫れ涙を流し、古谷を見上げて何度も頷いていた。 澪は古谷の横に屈み、古谷の腕を両手で掴んで引き上げる。 「湊君っ……かえろっ……っ……ねっ…」 涙を流して澪は古谷に声をかけ、古谷は気が抜けたようにフラフラと立ち上がった。澪は古谷の手を握り、焼肉店の駐車場に停めた車に向かう。古谷から車の鍵をもらい、古谷を助手席に乗せ澪が運転席に乗る。 「運転は私がさせてもらうね…」 澪はそう言って車を走らせた。帰りの車の中はシンと静まり2人は黙ったまま。 澪が信号待ちでチラリと古谷の手を見ると、右手の甲に擦り剥いた傷があり痛々しく血が出ていた。澪は自宅で手当てする事にし、マンションの駐車場に車を停め古谷に言った。 「湊君、家で手当てするから、一緒に来て」 「あっ、いいよ…」 「ダメ! そのまま帰せる訳ないでしょ! 一緒に来て!」 澪は強めに言い、運転席から降りてドアを閉める。助手席側に向かうと、古谷は困った顔で渋々ドアを開け、車から降りた。澪は車の鍵でロックをかけ、マンションのエントランスを入り、家に向かう。 家の中に入り照明を点け、ソファーの横に鞄を置いて古谷に言う。 「湊君、洗面で手の傷を綺麗に洗って。砂とか石とか流してね」 「うん…」 古谷が洗面台で傷を洗っている間に、澪は薬箱を出して来て、リビングのローテーブルに手当ての準備をした。消毒薬、傷の塗り薬、ガーゼに包帯。ハサミを持って来る。 澪は古谷にタオルを渡し、リビングに行かせソファーに座らせる。 「湊君、手を見せて…」 差し出された右手の甲には、中3本の第二関節から甲に向かって指の骨の山まで、皮が剥け血が出ていた。指の骨が浮き出る部分の損傷は激しく、相当痛いはずだ。 「綺麗な手だったのに……」 「大丈夫だよ。すぐ直る…」 澪は消毒液を取りフタを開けて、古谷に言う。 「しみるよ…」 「うん…」 傷口に消毒液をかけると「うっ!」と古谷が声を漏らす。澪は構わず無言のまま、塗り薬を塗り、ガーゼを適当な大きさに切って傷口に当てる。 「湊君……ありがとう。助かった……ありがとね」 澪は礼を言いながら、包帯を取り患部を巻く。 「でも、もうこんな事はしないで。守ってもらっても、湊君が傷ついたら悲しいよ…」 「ごめん…」 「もっと自分を大切にして…」 澪は手当てを終え、古谷を見上げてそう思いを伝える。すると手当てした古谷の手が澪の頬を包み、澪をジッと見つめる。 「俺が自分を大切にして、優先させたら……きっと困るよ。澪ちゃんも、岳も…」 「そんな事…」 「あるよ……やってみようか…?」 「えっ…」
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