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ベッドに横になり布団に入ると、星野は澪を抱く事なく、照明を消し澪を抱き寄せて眠りにつく。澪は星野の腕の中で目を瞑り、眠ろうとしていた。すると澪の後頭部を優しく撫で、星野が静かに尋ねた。
「澪、今日、本当は何があった?」
澪は息をのみ黙ったまま、眠ったふりをしようかと思ったが、星野が続けて話す。
「湊が言った事は本当なんだろう。でも、それだけじゃないんじゃないか? 澪は今、何を考えている?」
(岳は気づいている。私の様子がおかしいと分かっているんだ…)
「俺に話せない事? 湊と何かあった?」
星野の声がどことなく寂しそうで、澪は古谷の気持ちや星野の気持ちを考え、話し始めた。
「焼肉店に行って、店の前でターゲットだった男性と会ったの。私をなおって呼んで、近づいて来たから湊君がかばってくれたの。私を守ってくれていたから、その時に殴られたんだと思う。男性と言い合いになって、湊君が怒って、男性を何度も殴ってて、最後は地面に拳を打ちつけて私に近づくなって脅してた」
「それで、あの手か……殴っただけで、包帯を巻くほどの怪我は変だと思っていたけど…」
「手の甲に中3本の指の部分を擦り剥いてる。消毒して薬を塗ったけど、結構ひどかった。守ってくれるのはありがたいけど、もっと自分を大切にしてって言ったの」
真っ暗の中、澪は話を続け、星野は澪の頭を優しく撫でて聞いている。
「湊君はいつも自分の事よりも、岳や私の事を優先するじゃない?」
「あぁ、そうだな…」
「優しいんだよね。でも私も岳も自分で出来る事はするし、湊君は自分を優先してもいいんだよって話したんだ」
「うん…」
「そしたら…」
澪の脳裏に古谷がキスをしようとしたあのシーンが浮かび、口をつぐむ。
「そしたら…? どうした?」
「そしたら……岳も私も困るよって……湊君が自分を優先させたら、岳も私も困るって言ったの…」
澪はその後の事は伏せたまま黙る。しばらく沈黙した後、澪の頭を撫でながら、星野が優しく落ち着いた声で話す。
「そうか……湊がそんな事を…確かに湊は、俺や澪の事をいつも優先しているな。でもそれは…」
「それは?」
「澪は、湊が自分を優先させたら俺や澪が困るって言った意味、分かる?」
「……うん」
その言葉と古谷の行動で、澪は古谷の気持ちに気づいていた。そして、星野にも正直に答えた。
「そうか。湊がハッキリと口に出さない事は、俺の口からは言えないけれど、湊は俺と澪のいとこでいようとしているんだと思う」
「いとこ…?」
「もし湊が自分を優先させたとしても、俺は絶対澪を離さない。それは湊もよく知っている。だからこそ、俺や澪を困らせ関係を断たれる事よりも、いとこでいようと思っているはずなんだ。それが、湊の優しさでもあり、守る事にもなる」
「じゃ、湊君はあえてそうしてるって事…」
「そうだろうな。湊はそういう奴だ。俺に話した時のアイツは、まさにそうだろ?」
「うん…」
「湊の為に俺達が出来る事は、2人で幸せになる事。そしてこれからも、いつも通り湊といとこでいる事。それで湊は俺達のそばにいるし、関係は永遠に続く」
「うん、分かった…」
「澪、話してくれてありがとう」
澪の額に星野が口づける。
「ううん」
星野が澪をぎゅっと抱き寄せて、2人は眠りについた。
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