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結婚の準備を進めつつ、澪は星野の母親から教えてもらった料理教室に通い始める。火曜日と木曜日の週に二度、仕事が終わってから1時間コース。作った料理はそのまま家に持って帰って食べる事が出来、夕飯のおかずにそのまま出来て便利だと、くちこみにも書かれていた。
星野はウチダ貿易とのやり取りや副社長の準備、次の営業部長への引継ぎなどで相変わらず忙しく、帰りも遅い。少し澪とすれ違いの毎日を過ごしていた。そんなすれ違いを逆に利用し、澪は料理教室に通い寂しさを埋めていた。
10月中旬、料理教室に通い始めて2週間目の木曜日。新しく1人の女性が、料理教室に入って来た。澪と同じ火曜日と木曜日の週2回で、夜1時間のコース。調理するテーブルは澪の隣のテーブルになった。
駒木 鞠、24歳の可愛らしい女性。OLで、料理を覚えて彼氏に食べさせたいという理由で通い始めたという。笑顔で澪に話しかけて来て、2人はすぐに仲良くなった。
翌週の火曜日には連絡先を交換し、不器用で危なっかしい駒木に、澪が教えてあげる事もあった。料理教室のない日は、夜電話で話す事もあり、澪は星野にも駒木の事を話すようになっていく。
星野は自分が忙しくしている分、澪に寂しい想いをさせていると気にしていたが、澪が料理教室に通い出し駒木の事を聞いて、少し安心したようだった。
「じゃ今度、彼氏を家に呼んで、覚えた料理を食べさせてあげるの?」
澪は野菜を切りながら、隣のテーブルで作業している駒木に尋ねる。
「そうなんです! 彼氏に料理を作るなんて、今まで出来なかったから、今から緊張してて」
「ふふっ、大丈夫だよ。いつも鞠ちゃん、上手に作れているじゃない。きっと彼氏さん、喜ぶよ」
「そうだといいなぁ…」
「何を作ろうと思っているの?」
「あっ、このあいだ覚えた、クラムチャウダーです」
「そっか。美味しかったもんね」
「はいっ! 失敗しないように、もう一度家で作ってみようと思ってます」
「ふふっ、頑張ってね」
料理教室で作った料理を保存容器に詰め、教室が終わり電車で家に帰る。
家に着くのは夜8時頃。まだ星野は帰って来ていない。照明を点けリビングに入り、ダイニングテーブルに持って帰って来た保存容器と携帯を置いて、澪は寝室に入る。
クローゼットを開けスーツを脱いでハンガーにかけ、鞄を置いて部屋着を持ってそのまま浴室に向かった。シャワーを浴びて髪を乾かしリビングに戻ると、ダイニングテーブルに置いた携帯の通知ランプが点滅していた。
「ん? なんだろ?」
澪は携帯を持ち内容を確認すると、西原から着信が来ていた。ソファーに座りすぐに西原に電話を掛ける。数度コールが鳴って、西原が電話に出た。
「桜、久しぶり。どうしたの?」
《あぁ、澪、久しぶりだね。最近ちょっと忙しくて電話出来なかったんだけど、やっと落ち着いたから元気かな? 仲良くやってるかな? と思って電話したの》
「ふふっ、そうなんだ。ありがと。仲良くラブラブだよ。桜にも改めて招待状を送るけどさ、来年の4月に結婚式をするの」
《そっか! じゃ、今、準備中? 澪も忙しいね》
「うん。料理教室にも通い始めたんだ」
《へぇ、もう新婚さんだね。あ、まだ結婚式はこれからか。ふふっ》
「うん。桜、絶対来てね」
《もちろん! 親友の結婚式だもん。澪の幸せで綺麗な姿を見に行くよ》
「うん。それで、仕事の方はもう大丈夫なの? 忙しかったって、私が辞めたから…」
《あぁ、違う違う。澪じゃなくて、最近、入江君が辞めたの》
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