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その夜、星野に話そうとしたが澪は話を切り出す事が出来ず、結局、そのままいつも通り眠りについた。星野に話すなら早い方がいいと、分かってはいる。だがどう話そうか、澪の頭の中ではまだ何もまとまっていなかった。
始業時間のチャイムが鳴りミーティングを始めて、終わると星野は次期営業部長と出かけた。澪はパソコンに向かい仕事をしながら、右隣で仕事をしている古谷に声をかける。
「古谷さん、例の件、やっぱり彼に話そうと思います」
「えっ、どうしたの? 急に」
「実は昨日、2通目が届きました。今回は文章つきで。後で見せますが、もう正直に話した方がいいと思ったんです」
澪がそう話すと、古谷はオフィス内を見回し、椅子ごと澪に近づき小さな声で話す。
「2通目、持って来てるの?」
澪は小さく頷く。すると古谷は手を差し出した。
「見せて」
「えっ、今、ここで?」
「うん。オフィス内は、澪ちゃんの事、監視してるヤツいないみたいだし、大丈夫だと思う」
澪はそっと周りを見て、デスクの一番下の引き出しを開け、鞄から白い封筒を取り出し古谷に渡した。古谷は封筒を受け取り、デスクの下で封筒の中から三つ折りの紙を取り出し開いて見る。
「はぁ?」
突然、大きな声で疑問符で叫ぶ古谷。オフィス内にいる社員達が一斉に声の主である古谷に注目する。澪は慌てて、右手の人差し指を立て口に当てて言う。
「シィィー! ! 声っ!」
「ご、ごめん。つい…」
古谷は身を屈めて社員達の目から隠れると、社員達は何事もなかったように仕事に戻った。2人はホッと一安心すると、古谷は紙を封筒に入れ言った。
「澪ちゃん、ちょっと休憩室に行こう」
「うん…」
2人はオフィスを出て休憩室に向かい、中に入ると出入り口から一番奥の席に澪は座った。古谷が自販機でコーヒーを2つ買い、両手に紙コップを持って戻って来る。テーブルにコーヒーを置いて、澪と向かい合わせで座る。
「ありがとう。いただきます」
「うん、どうぞ」
2人でコーヒーを飲み、古谷は出入り口をチラリと見た後、封筒から紙を取り出しテーブルに広げた。
「これ、何? どういう事?」
「相手に探っている事がバレて、今度は私を脅してきたの」
「あ、うん、それは分かるけど。いや、そうじゃなくて……この男性って、あの時の」
「あっ、うん。彼は『ラブ&ピース』の社員なの。以前、彼は元ターゲットの女性につきまとわれていて、その女性を説得するために私が協力したの。その写真はその時、帰るタクシーを待っている時のものなの」
「彼は同僚だったのか……澪ちゃん、これって本当の事?」
「ん…? 本当の事って?」
「だから、これっ!」
古谷が声を荒らげて、写真の一部を指さす。
「キスしたの? 彼と…」
そう言った古谷は、真剣な顔で澪を見つめていた。澪は正直に話す。
「この写真は、どこも修正されていない。全部、本当にあった事。キスされそうになって、とっさに顔を逸らしたけど、彼もそれを分かってて……唇の端に少し当たった」
そう話すと古谷は、傷跡が残る右手の拳をテーブルに叩きつけ、顔を歪ませて怒りをぶつけた。
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