白い封筒

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「くそっ! 気安く触れやがって…」 (湊君がこうして怒るって事は、やっぱり岳も怒るよね……) 「だから岳に話そうと思ったのか」 「うん…犯人から岳に伝わるより、私の口から正直に話した方がいいと思うし、誤解はされないと思うから」 「でも、岳はこれを見てどう思うかな…」 「……うん。きっと……怒るだろうな。でも、覚悟はした。今日の夜、話すつもり。湊君、協力してくれてありがとう。でも、もういいよ」 「俺は何もしてないけどな。ただ犯人を見つけられないっていうのは、不満だけどね」 「それは桜も同じで、桜は調査をまだするって言ってる。プロのプライドだって」 「そうだろうな。俺も、出来る事があったら言って」 「ありがとう」 「しかし、ムカつくなぁ…」 「えっ?」 「俺の姫に触んじゃねぇって……姫は王子のものだろ? なのにさぁ…」 そう言って古谷が写真をニラみながら、コーヒーを飲んだ。その怒った顔が、澪には優しさを含んだ顔に見えて「ふふっ」と思わず笑った。するとすぐさま古谷が澪に言う。 「いや、笑いごとじゃねぇからなっ! 王子に絶対怒られるからな!」 「は、はいっ…」 澪は姿勢を正し、古谷に頭を下げる。古谷は呆れたようにひとつ息をついた。 今日は料理教室がある木曜日。仕事が終わって澪は、古谷に車で料理教室のビルまで送ってもらった。駒木と隣同士で楽しく『ローストビーフ』を作り、帰る準備をしていた。 「じゃ、澪さん、またね」 「うんっ、またね」 駒木が先に鞄を持って教室を出て行く。その時、鞄からポトリと何かが落ちた。 「鞠ちゃん、何か」 澪が駒木に声をかけ落ちたものを拾いに行くが、駒木は澪の声に気づかずそのまま帰って行く。澪は床に落ちているものを拾い、駒木を追いかけた。それは、駒木がいつも料理をする時に髪を束ねるシュシュだった。 ビルを出て駒木の背中を追う。駒木は少し駆け足で駅とは逆の方向に行く。 (ん…? どこに行くんだろ? 急いでる?) 「鞠ちゃん!」 と声をかけた時、数メートル先で澪が目にした光景は信じがたいものだった。思わず立ち止まり、呆然と駒木を見つめる。 (どうして……鞠ちゃんと彼女が……) 待ち合わせをしていたように仲良く笑顔で話す、駒木と見覚えのある女性。駒木を待っていた女性は、以前、入江に付きまとい澪に酒を浴びせ罵倒した女性だった。澪にとって印象深い思い出で、忘れようにも忘れられない女性だった。 2人はすぐ近くに停まっていた車の後部座席に乗り、その場から去って行く。澪は駒木のシュシュを持ったまま振り返り、帰りの駅へ向かいながら色々と思いを巡らせていた。 澪の頭の中はあれこれとパンク寸前。入江のストーカー事件、白い封筒の犯人、料理教室。 (もしかして、全部、繋がってる…? でも、一体、誰が?)
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