白い封筒

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家に辿り着いて澪は重い足取りでリビングに入り、照明を点けた。ダイニングテーブルに携帯と『ローストビーフ』を入れた保存容器を置き、寝室のクローゼットを開けてスーツを脱ぎハンガーにかける。着替えを持って浴室に行き、シャワーを浴びた。 (岳は今日、何時に帰って来るかな…) ここ数ヶ月、星野は夕食を家で食べる事がほとんどなかった。澪と夕食を共にするのは、休日となる土曜日や日曜日、祝日の他に、数ヶ月で二、三度程度しかなく、平日のほとんどは取引先との会食や次期営業部長と今後の話をする為の食事に行っていた。 帰って来るのは早くても夜8時、遅い時は夜の10時を回る。料理教室で作ったものは、そのまま澪の夕食になるのが常だった。料理教室がない日は、古谷と夕食して帰る事が多く、寂しい食事を毎日するといった事はなかったが、だけどやはり星野と一緒に過ごす時間が短く、澪は寂しさを感じていた。 浴室から出て髪を乾かしていると、玄関から声がして洗面所を覗く星野。 「ただいま、澪。お風呂入っていたのか」 澪はドライヤーを止めて話す。 「おかえり、岳。早かったね」 「うん。今日は、ちょっと早く切り上げてきた」 「そうなんだ」 澪はドライヤーを片づけ、星野と一緒にリビングに向かう。ダイニングテーブルに置いた『ローストビーフ』を見た星野が言う。 「澪はまだ夕食を食べていないのか?」 「うん。料理教室から帰って来て、すぐにお風呂に入ったから、これから食べるところなの」 「そっか。じゃ、俺も少しそれを食べてもいい?」 「うんっ! 一緒にたべよ」 星野は寝室で部屋着に着替え、ダイニングチェアに座った。澪は持って帰って来た『ローストビーフ』を薄く切り、皿に盛りつけタレをかけてテーブルに置く。炊飯予約をしておいたごはんを茶碗によそい、朝に作っておいたスープを温めて器に入れ、テーブルに置く。箸やグラスを置いて、久しぶりに星野と向かい合って澪は食事をした。 「うまっ! これを1時間で作ったのか?」 「うん、そうだよ」 「へぇ、出来るもんなんだな。もっと時間がかかる料理だと思ってた」 「私も思ってたけど、今日、作ってみてほんと驚いたんだ」 「そっか。料理教室で覚えた澪の料理が、これから楽しみだな」 「ふふっ、期待してて」 「うん。ずっと忙しくて、澪に寂しい思いをさせていると思う。でも、もう少しだから……ごめん、待ってて」 「うんっ。岳、もしかして、それで今日、早く帰って来てくれたの?」 「……まぁな。俺も、澪と一緒にいたいのは同じだから」 「岳……ありがとう」 2人で食事をして片づけている間、星野はシャワーを浴びに行く。澪は片づけながら、白い封筒の事を話そうと決意する。上手く説明が出来ないかも知れない。それでも星野はきちんと話を聞いてくれるはずだ。澪にもう迷いはなかった。 片づけを終え、澪は2通の白い封筒を出し、リビングのローテーブルに置く。澪はラグマットに腰を下ろし、星野を待っていた。浴室から出てドライヤーで髪を乾かした星野がリビングに戻って来る。 「ん…? どうした? 澪…」 星野が澪の横を通り、ソファーに腰を下ろす。 「ん? 何だ? この封筒…」 星野が白い封筒を1つ取り尋ねる。
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