白い封筒

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「岳に話があるの。ただでさえ岳は忙しいのに、余計な事で心配かけたくなくて言えなかったけど…」 星野を前にすると、澪は想いが込み上げ胸が張り裂けそうに苦しくなり、目に涙を浮かべた。 「何? この封筒はどうした? 中を見ていい?」 「うんっ…」 星野はクシャクシャの封筒から中の紙を取り出し、テーブルに広げた。印刷された写真に顔を近づけて凝視する。 「これは……俺とウチダ貿易の瑞貴さん。何だこの写真……ウチダ社長がいない…それにこんな、こんな事、俺はしてないっ! 澪っ、俺は」 星野は焦った様子で弁解するように言う。澪は涙目で微笑み言った。 「うんっ、分かってる。岳がこんな事する訳ないって、分かってるよ。きっと修正や加工された写真だと思う」 「修正…加工…」 「あったものを消したり、足したり、動かしたり、そんな事が出来るソフトやアプリがあれば簡単に出来るって、湊君に聞いた」 「湊? 湊は知っているのか?」 「うん。それと、桜も」 「ん? 西原さんも?」 「うん。この白い封筒は、宛名が無くて直接ポストに入れられていたの。中に入っていたのは、この紙1枚で何も書かれていなくて、ただ岳が瑞貴さんと2人で会って抱き合っているように、私に見せたかったんだと思う」 「何の為に…」 「はっきりとは分からなくて、でも岳を監視しているんだと思って、桜に相談したの。桜は今、色々と調査してくれているの」 「俺は監視されているのか? 今も?」 「うん。岳に話そうと思ったけど、さっきも言ったように、余計な事で心配かけたくなかったの。この事で悩んでいたら、湊君に様子が変だって気づかれて……話したんだ。湊君には「岳は知りたいと思うよ」って言われたけど、結局、今になっちゃった」 「澪が俺の事を心配するように、俺も澪を心配している事を忘れないで。澪の気持ちは嬉しいよ。でも、俺は澪だけにつらい思いや悲しい思いをさせたくない。話してくれてよかった」 「岳…話すのが遅くなってごめんね」 「うん、いいよ。で、これは?」 星野がもう1通の封筒を取り、中を覗いて紙を取り出す。 「その2通目が届いたから……話す事を決めたの…」 澪がそう言ったのを聞いて、星野は紙を開いてテーブルに置いた。印刷された写真は1つが小さくなり、ズラリと並んでいる。星野はまた紙に顔を近づけ、写真を凝視した。 「これは、澪だよな。一緒にいるのは、あっ、あの時の友人の男性」 星野には入江の事は友人だと話したままだ。 「実は彼、入江 光君と言って『ラブ&ピース』の社員だったの。今は辞めちゃったみたいだけど」 「友人じゃなくて、同僚? って事は、この写真も修正加工されているのか」 「確かに、彼は友人ではなくて同僚だった。でも……その写真はどこも修正加工されていない…」 澪がそう話すと、星野はゆっくりと澪を見つめた。 「それは、どういう事? この時、彼にキスされたって事? 抱き締められて、額にも…」 澪は星野の顔を見つめたまま、涙を零し小さく頷いた。すると星野は澪に抱き着きぎゅっと抱き締める。
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