本編

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本編

 高校一年生の夏、私と桔梗(ききょう)は付き合い始めた。共通の趣味だとか、気が合うとか、そんな簡単な理由で付き合い始めたのだけれど、私たちはちゃんと、ずっと、お互いを好きだった。私が公園で本を読んでいた時、桔梗が同じクラスだった私に声をかけたのがきっかけだった。 「その本、俺も持ってる」 「え……?」  困惑している私の隣に座って私の読んでるページを見て楽しそうに本の話をしていた。 「同じクラスだよね? 紫苑って名前、綺麗だなって思ってたんだ」  しばらく本の話をした彼は、私が一言も話していないことに気づいてそう言った。名前を褒められることなんてなかなか無いから、嬉しくて小さく笑ってお礼を言った。 「……ありがとう」 「いつも本読んでるけど、そんなに本が好きなの?」  私は栞を挟んで本を閉じた。すり、と本の表紙を撫でてからしばらく黙って、首を横に振った。 「本は好きだけど、クラスに上手く馴染めなくて。一人でいる理由を、本にしてた」 「……そっか。じゃあ、俺が紫苑さんの友達になっていい? そしたら一人じゃないよ」  優しい声とその笑顔に、私は頷いていた。それからクラスで、公園で、彼と色んな話をして、私はクラスに馴染むことが出来て、楽しい高校生活を送り始めた。  告白をされたのは、本当に突然だった。いつもみたいに公園で二人で話している時、彼から好きだと想いを告げられたのだ。顔を赤くして、余裕のなさそうな顔で私の返事を待っている彼が、なんだか可愛く見えた。断る理由もなければ、私も彼に惹かれていたから、返事はすぐにした。  そうして付き合って二年以上がたち、高校三年の夏休み明け、彼の様子がおかしくなった。 「桔梗、今日も一緒に帰れない……?」 「あー……うん、ごめん。今日も新太(あらた)と帰る」  少しづつ、ズレていくように私たちの気持ちは離れていく。一緒に帰れるかどうか、そう聞くのがどんどん怖くなった。断られるのはなんとなくわかるから、だから、聞きに行くのも気まずくて、でも、聞かないと、次から声をかけられなくなってしまいそうだから。何がきっかけで上手くいかなくなったのか、いつから彼が私の目を見て話さなくなったのか、ここまで悪化するまで私はわからなかった。彼と彼の友人は荷物を持って教室を出ていく。  彼の友人は少し気まずそうな視線を私に向けてから「またね」と声をかけて彼と行ってしまった。何だかゆっくりと、心に穴が空いていくようだった。  一人で帰り道を歩く。夕日が私を照らしていて、その日差しが暑かった。今日は公園で本は読めないかな、なんて考えればそのまま家に帰った。毎日連絡をとっていたのに、今日も桔梗から連絡はこない。なんとなく、もう私達の楽しい時間は終わったのかな、なんて連絡のこないスマホ画面を見て考えた。そう思ったら胸が苦しくて、喉が締まって、部屋で一人で泣いてしまった。このままが嫌で、桔梗に連絡をした。返事が来ないとわかっていながらも。 「明日、二人で話がしたい」  たった一言、それを送るので精一杯だった。
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