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窓を開けると、首元に朝の冷たい空気が流れ込んできた。
「朝は窓を開けなさい」は、妻の口癖だ。
この家を建てて十年、リビングの大きな窓を朝に開け放つのは僕の担当だ。
けれど、勇んで全開にしてから、今朝は少し後悔する。
北の四月は、まだまだ寒かった。
生活とは、想い出を積み重ねるゲームのようで、期待とともに毎朝起きるのが早くなってゆく。
許された、とは思っていない。
厚みを増した僕らの人生が折り重なり二人になれたのだと、僕らは信じている。
そして今日も、愛する妻との一日はやってきた。
東京の実家で独りで暮らしていた母親を説得して、今月この北の街に呼び寄せた。
迷うな。貫け。
決心してから自分に言い聞かせ、妻と協力して母を見ていくことにした。
簡単なことではない。
僕らはこの四月、新たな始まりに立っていた。
今日も慌ただしい朝だ。身支度をして母を車椅子にのせる。
窓を出て僕が押して庭を歩き始めてすぐ、家の入り口に一昨年植えた長男の誕生桜が、初めて桜色に色づいていたことに気付いた。
「あ、桜……」
後ろから長男と手をつないで歩いてきた妻と、目があった。
下ばかり向いていては、気付かない。
僕らには、これから桜の季節がやってくる。
《end》
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