1章 4.始めの一歩!

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       ―2.冒険者コレギウムの作法?―    開けっ放しの玄関を(くぐ)って、まず思うことは、暗い、だった。 まだ、日が昇る夕暮れは遠いのに、光を落とす室内灯だけでは、全体に届かない。 小さめの窓が数多く並ぶ壁側には、職員や、仲間…か、とにかく、話をする若者が()る。 正面には、円筒の外側に、立ったままで使う書き物机があって、手元を照らすように、円筒の内部から光が落とされているようだ。 「タイ君、後ろみたいだよ」 「え?」 カナの言葉に、そちらへと顔を向けると、受付台の向こうに並ぶ女たちが目に入り、そちらに向かう手前にある、大きめの看板が気を引いた。 「文字読めるから、あっちに行く?」 その言葉に、今度こそカナを見て、指差す方を見た。 玄関が、深めに建物側に入っているのだが、その両脇には、初めて、この冒険者コレギウムを訪れる人に向けて、説明があるらしく、玄関に向き直って、左手は、書面による説明で、右手は、音声による説明をしてくれるようだ。 読み書きできる者は、多くないのか、右手の部屋の方が明らかに大きくて、人が多い。 「そうだね、あっちの方が、ゆっくり確かめられそうだ」 そういうことで、手前の看板に、冒険者登録説明(書類)と書かれていた部屋に入った。 内部は、角部屋だからか、同じ1階の室内で比べれば、受付らしき区画よりも、格段に明るい。 机の前に椅子が用意してあるなどで、ぎゅう詰めになっている音声案内の室内より断然、環境がよい。 部屋の出入り口の扉は、肩下から胴を隠す程度の幅があるだけの木の扉だが、室内に完全に入ると、揺れる扉の音はするが、その向こうの、ざわめきは聞こえなくなった。 カナが、振り返って、何かを探すような素振りを見せたが、すぐに思い直したらしく、室内に目を戻した。 「あ、あそこにしよ」 カナが指差す先には、小さな明かり取りの窓の横に並ぶ、2人で向き合う背の高い机と、それに合わせた椅子がある。 右手の玄関側の壁には、6人まで囲めそうな机を挟んで向かい合う長椅子が2組並んでいて、カナが示したのは、その奥の、部屋の(かど)だ。 中央には、先ほど見たよりも細い円柱が天上まで延びて、外側に、幅広な書き物机が設置され、2脚ずつ椅子が並んでいる。 左手の、明かり取りの窓がある方には、1人用の書き物机と、高さに対応する高い椅子が並んでいる。 「書類はどこかな」 「そこから取ればいいんじゃないかな。それか、机の所にもありそうだけど」 確かに、円柱の書き物机の下には、手を差し込める程度の書類入れがある。 6人用の机にもあるようだし、何より、机の上には、冒険者登録のための図による説明書きが置かれている。 「まずは、机の所に行ってみようか」 「うん」 提案すると、カナも、同じことに気付いていたのだろう、すんなり付いてくる。 目当ての机の脇には、縦長(たてなが)の小さめな…人の胸から頭までの高さで、細身の人なら肩を出せるかもしれない幅の…窓の横に、3本ずつ太めの(かぎ)が取り付けられていたので、2人は、背負っていた荷物をそちらに引っ掛け、カナが、外套を脱ぐので、タイも同じように、脱いだ外套を(かぎ)に引っ掛けた。 「こっちは冊子になってるんだね」 カナが言うように、6人用の机の上に貼られていた説明書きと同じようなものが、薄い冊子の紙に、スクラップブックのように貼り付けてある。 ただ、貼り付ける本体は、紙とは言えない、縫製で出たらしい、ある程度同じ種類の糸の端切れらしい糸屑(いとくず)を、(のり)のようなもので固めたもののようで、凹凸(おうとつ)が多く、色の種類が多くて、とても文字を書けるものではない。 「ん。もしかして、紙は少ないのかもな。まあいいや。えっと、こっちは、登録手順だね。分かることだけ書き込めば良さそうだ」 冊子には、登録用の紙の記入例も貼り付けてある。 注意点としては、記入は本人が行い、必ず枠の内側に収め、複数の者の書いた文字があってはならない。 登録用紙には、(あらかじ)め、霊方術による仕掛けが(ほどこ)してあるので、複数の者が同じ書類の回答枠内に書き込みを行うと、この仕掛けが発動しなくなるので、書き直しを求められてしまう。 そのような都合があり、書き方が判らないなどの問題があれば、空欄にする決まりだ。 かなり繊細な仕掛けでもあるので、記入者が大雑把で、誤字脱字が判別不能の域に達していたり、枠内に収まらないほど大きな文字を書くなどであれば、文字を書けない者たち同様に、口頭による真偽判定を行うことになる。 「うん。書きながら読もうか」 「うん。えっと、と、あった。ね、取り敢えず確認しよ。冒険者の仕事」 「えっ!あっ、そうか!」 なんとなく、元の世界で見聞きした冒険者ギルドの要領で仕事をするのだと思っていたし、マティーナの説明にも違和感を覚えなかったけれど、思えば、タイもカナも、シールドの使い方の練習を多くしていたので、説明の詳しいところまで、突っ込んで聞いてはいないのだ。 「危ないな…えっとそれも、載ってる?」 「うん。そんなに後ろじゃない、こんなの」 カナが見せてくれたような頁を探して、冒険者の仕事内容、という項目を開く。 それによれば、冒険者は、危険を冒す職業であるそうだ。 仕事内容を分けるとすれば、各種採集と、護衛と、討伐と、荷運びと、情報収集。 海側の町…港のあるオッピドゥムに行くと、船員として乗り込む者たち…船長はもちろん、操船技術を担う者たちと、荷運びとして乗り込む者たちも、冒険者として登録する。 ちなみに、狩猟者や漁労者は、通常は商品の提供者として、生成者コレギウムの中の狩猟師コミティア、漁労師コミティアといった、職別区分に個人で登録している。 小さな船で1人で仕事をする者や、船を持たずに、雇われて船に乗り込む者であれば、横の繋がりが持てるので、有利な情報を得やすくもなる。 コミティアは、コレギウム内で区別するための区分なので、登録者としては、得る情報の種類を選別しやすくなったり、職種に合った対応をしてもらいやすいといった利点がある。 そのため、狩猟をして、加工も行う者は、工匠者コレギウム内の製革師コミティアや、同じ生成者コレギウム内の食肉師コミティアに同時期に所属していてもいい。 同じようなことは、冒険者コレギウムでも行われており、採集を専門職とするのなら、組みたい専門職の者、例えば討伐を専門とする者を特に紹介してもらい、一時的に同伴してもいいし、ひとつのクーリアとして、長期の付き合いを考えてもいい。 ただ、初心者には、冒険者としての仕事は未経験という者も()て、これから、自分の特性と向き合っていくところだ。 タイもカナも、自分に何ができるか、全く分からない状態なので、専門職欄は空白で構わない。 そのほか、各仕事での注意点も、文字だけでなく、絵や、簡単な地図を交えて説明されており、多少、知らない単語があっても、読み解くのは難しくなさそうだ。 特に、異世界人であるタイとカナには、採集物の大きさや、採集の要領、危険な地域、比較的安全な地域の大まかな位置や、どの程度の危険があるのか、何を(もっ)て安全としているのか、非常に理解しやすかったと思う。 タイとカナは、ケータイに、これらの情報を取り込んで、仲間たちと共有しておいた。 先に出た仲間たちも、こちらに来ると思うのだが、重複内容は削除する仕様になっているので、その処理が行われないところを見ると、まだ、こちらには来ていないか、別の情報を掴みに行っているのだろう。 まあ、情報収集の目的でなくたって、多くの物事を見聞きし、経験することは大事だ。 最後に、同時期で別のコレギウムに所属しても問題ないことなど確かめると、タイとカナは、書き込める情報を書き込んで、顔を上げた。 登録内容は、事実でなければならない。 出身を問われる内容の場合は、この王都、ツィベラヒムにすることに決めた。 細かい地区まで問われたら、王城のある北区としておけばよい。 さいわい、なのか、分からないが、王都なら王都の名だけで良いようだった。 問題は、本名だが、これは、こちらの文字で、自分たちの名の音を書いた。 姓名を区切らず(しる)したので、通称である表記名を見ても、どこで区切ればよいか判らない…はず。 日本からの異世界人の名を並べたら、見当が付くだろうけど。 いずれにせよ、真偽の判定で引っ掛かるなら、コレギウムに対しては、異世界人である事実を明かすことにした。 近いうち、仲間の多くが、この冒険者コレギウムに、異世界人として登録する。 この世界の、この国の民たちが(いただ)く王の所業を聞いても、保身のために、こちらに害意を示すなら、それでも構わない。 まだ、この世界には、来たばかりなのだ。 国はひとつではないと判ったことだし、いつでも2人、身を隠して、成り行きにでも任せるつもりだ。 互いの目に、覚悟のようなものを見て、なんとなく、へらりと笑う。 さあ、セブンスティル王国冒険者コレギウム、ツィベラヒム本部は、どんな対応をしてくれるのか、見てみよう。
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