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今から10年ほど前。
私が5歳の時。
公園で友達と遊び終えたあと、帰路に着いた時だった。
「みぃーみぃー」
小さなか細い鳴き声が、垣根の向こうにあるほとんど使われることのないベンチの方から聞こえてきた。
垣根を越え、声に誘われるようにベンチの下を覗き込むと、段ボールの中に手のひらに収まるような小さな猫が入っていた。
「あー!ネコだ!」
白と黒の小さな猫は私を見上げると、みぃーと鳴いた。
その可愛さに一瞬で虜になった私は、その猫をはしゃいで連れて帰った。
「んーとね、ちっこいからお名前はチコねーー」
小さな猫を抱き抱えて歩きながら、ずっと私はチコに話しかけていた。
「どうしたの!?その猫」
「公園にいたのーー飼っていいでしょー?」
「真衣ちゃん、パパとママは猫アレルギーなの。だから一緒に暮らせないの。可哀想だけど返しておいで」
その時初めて両親が猫アレルギーであることを知ったのだと思う。
「えーーなんでダメなのーーやだやだーー!」
私は泣いてわめいたが、いつもは優しいお母さんもその時だけは首を縦に振ることはなかった。
結局願いは通らず、返しにいくことになった。
でも私は、チコを拾った公園ではなく──この階段に来たのだった。
この階段に猫がたくさん集まっていることを知っていたからだろう。
「ここならお友達いっぱいいるからね」
私は泣きじゃくりながらチコが入った段ボールを置いた。
「チコお友達となかよくしてね。またぜっったい会おうね、約束だよ!ゆびきりげんまんだよ!」
そう言って、私は何度も後ろを振り返りながらその場を後にした。
チコと大きく書かれた段ボールの中には、お小遣いで買ったキャットフード。そして真衣の1番お気に入りのタオルをかけてあげていた。
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