『その魔法はいつだって世界を変える』の扉

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『その魔法はいつだって世界を変える』の扉

――空に透き通るような青い月が浮かぶ夜―― 石畳の道を歩く一組の男女が居た。 女性は18歳、男性は13歳の子供に見える。 しかし紅騎士団(クリムゾン)の隊服である黒のローブマントを羽織っていることから、その年齢が実際のものと食い違っている可能性が窺われた。 ティターニア国は年々減少している優秀な魔術師の温存のため、抗老化術式を強制している。 クリムゾンに所属しているということは、その術式の対象者であることを意味していた。 実際彼女は既に46歳、彼は41歳という年齢であり、彼らは結婚後数ヶ月の新婚だ。 その新婚夫婦は家路を辿りながらも、各々の事情によって内心焦っていた。 夫のルカは今日、9月18日が入隊記念日である。 祝ってやると言う友人夫婦や、妻の元部下の3人組からの誘いを断り、2人きりの時間を楽しもうと店も予約したというのに……そんな日に限って出動要請がかかり、予約時間からすっかり遅くなってしまって店には入れなかった。 みんなで祝おうと言っていた妻をどうにか説得して2人の時間を作った手前、なんともバツが悪い。 妻のレイもまた複雑な心境だ。 しかし理由は夫の考えるものとは異なる。 特別な日だからこそ、今日ならば言えるのではないかと思ったのに……ふぅとため息を一つ吐いて、最近ようやく見慣れてきた新居に目を遣ってぴたりと足を止めた。
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