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謎の湖
50年以上前の昔話である。
群馬県高崎市。
この町に、榛名湖という大きな湖がある。
かつてこの湖の湖畔に、"何かおかしなものが突然落ちてくる"、という言い伝えが広まっていた。それはゴミや鳥の死骸のような大抵の人が嫌がるようなものもあれば、小銭やお札が落ちてきて生活が救われたケースもあったそうだ。
向陽という名の、盗みや性犯罪などの悪事を繰り返し働く極悪人が、その言い伝えを聞きつけて榛名湖畔にやってきた。向陽は辺りを見回し、誰もいないことを確認すると、何やら独り言を呟いた。
「ふう、やっと着いたぜ。どんだけ山道を登って来たことか。こんなに苦労して険しい道を歩いたんだから、本当に"ご褒美"が降ってくるんじゃろうな?金でも若い女でも。フヘヘ、楽しみだぜ!」
向陽はお気に入りの無精髭を指で撫でながら、不気味に微笑んだ。
彼は55歳だが、まともに定職に就いたことはなく、泥棒として強盗で得た金で生活してきた。更に"超"のつくほどの女好きで、特に子供や若い女性に目がなく、痴漢などの猥褻行為を度々行っていたが、早足で逃げているので今まで捕まったことはない。とんでもない中年男なのだ。
それはさておき、水辺で胡座をかいて腕を組み、じっと無言で上を見上げる向陽。
すると、ヒューッと何かが落ちてきたではないか!見ると、なんと真っ赤な目をした日本人形だった。普通のものとは明らかに違い、口元は笑っているように見え、さすがの向陽も恐怖を感じた。
「何だ、ただの人形じゃねえか。しかも気味が悪いし。俺はこんなものを求めてたんじゃない。女は女でも動かないんじゃつまらないぞ。くそ、悪質なデマか。くだらん、帰ろう」
向陽が文句を吐き捨て人形に背を向けた、その刹那だった。人形が彼を呼び止めた。
「お待ちなさい、オジさん」
「あ?誰に向かって口聞いてんだ?」
向陽は声に反応して振り返り、ギロッと人形を睨み付けた。
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