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それは恋
ラグドリー王子は、今まで出会ったどの王子よりも魅力的だった。少し長めの前髪からのぞかせる瞳は吸い込まれそうな美しい黒をしている。妖艶な身のこなしも、腰砕けになりそうな甘い雰囲気で私をとろけさせる。
ふいに足元がぐらついた。
「スコル姫、気をつけて」
ラグドリー王子はグッと私を引き寄せ、転ばぬよう気遣いをくれた。力強い優しさと甘美な温もりに、私はもう王子の虜になっていた。
──あぁ、これは恋だわ。きっと恋。見つけたわ、私の恋!
そう思ったとき、また足元が、今度は大きくぐらついた。
「大丈夫かっ!」
倒れそうになった私を、王子がふわりと抱きあげる。
──お、お、お、お姫様だっこ!
口には出せない心の声。人生初にしてのお姫様だっこを経験。
──あ、あ、あ、ありがとうございます!
ドレスの裾を揺らし、夜風を切るように腕の中で運ばれる。何人もの間をすり抜け、いくつもの通路を超え、いつの間にかそこは私の寝室だった。
ベッドに私を横たわらせた王子は、細く長いきれいな指でゆっくり髪を梳いてくれた。
「大丈夫ですか? 体調不良の姫に乱暴なことをしちゃいましたね」
超絶至近距離で届けられるラグドリー王子の柔らかい声。
体調不良は貧血なのか。
横になりながらもふわりふわり。
あれ? 貧血?
なんだったかな。
なんだか引っかかるけど、まあいいか。
「僕は、姫のことを以前から知っていたんだ。君の国と僕の国はあまり良い関係を築けていない。だからね、この、君の国を探ろうとしていたんだ。そんな時に舞踏会が催されると知ったからこうして来たってわけさ」
ラグドリー王子は薄い微笑みで私に語り続ける。
「あわよくば二つの国を統合させて、手中におさめてやろうって考え。良くない考え。そういう黒い心を持ってやって来たんだよ、僕は」
王子が本心を伝えようとしているのが分かる。遠ざかってしまいそうな意識を必死に保ちつつ、王子の手に私の手を伸ばす。王子は、滑らすように手を絡め、繋いでくれた。
「でもね、君を見つけた時、一瞬にして黒いものが消し飛んだんだ。本当だよ。君に恋をしたんだ。君の笑顔に、君の声に」
絡めた手と手は指先までも同化しているようで、このまま離れたくないと強く思った。
体がどんどん熱くなっていく。
呼吸も荒くなっていく。
逸らすことのできない瞳がこの後の展開を想像させる。
やばい、私の恋が完全に手に入っちゃった。
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