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背中につけられた爪の痕が、ひりひりと痛む。
熱いシャワーを浴びながら、俺はひどく後悔していた。やはり一線を越えるべきではなかった。これで、俺たちは終わりだ。二十年間続けてきた幼馴染みの関係は、一夜にして壊れてしまった。
シャワーから出たら、あいつはもういないだろう。もともと荷物の少ないワンルームマンションには、冬の冷えた空気だけが留まっていることだろう。
* * *
「涼介、今夜泊まりに行っていい? 親がさー、旅行でいないんだよ。飯、作って!」
「またかよ。俺はおまえのママじゃねえぞ」
家事能力が壊滅的な幼馴染みは、片道一時間半以上かかる大学に実家から通っていた。
高校卒業と同時に家を出た俺は、文句を言いながらもつい孝太の面倒を見てしまう。孝太から離れるために、違う大学へ行って、一人暮らしを始めたというのに。
「だってさ、涼介の飯、うまいんだもん」
甘えたように見上げてくる幼馴染みから目をそらす。可愛いんだよ、ばーか。
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