二十歳の衝動

2/16
前へ
/41ページ
次へ
 背中につけられた爪の痕が、ひりひりと痛む。  熱いシャワーを浴びながら、俺はひどく後悔していた。やはり一線を越えるべきではなかった。これで、俺たちは終わりだ。二十年間続けてきた幼馴染みの関係は、一夜にして壊れてしまった。  シャワーから出たら、あいつはもういないだろう。もともと荷物の少ないワンルームマンションには、冬の冷えた空気だけが留まっていることだろう。   * * * 「涼介、今夜泊まりに行っていい? 親がさー、旅行でいないんだよ。飯、作って!」 「またかよ。俺はおまえのママじゃねえぞ」  家事能力が壊滅的な幼馴染みは、片道一時間半以上かかる大学に実家から通っていた。  高校卒業と同時に家を出た俺は、文句を言いながらもつい孝太の面倒を見てしまう。孝太から離れるために、違う大学へ行って、一人暮らしを始めたというのに。 「だってさ、涼介の飯、うまいんだもん」  甘えたように見上げてくる幼馴染みから目をそらす。可愛いんだよ、ばーか。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

73人が本棚に入れています
本棚に追加