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約一ヶ月と少しだったけど、幸せでした。
コーヒーカップに手を掛けたまま、ぽかんとした表情をしたろく先輩に、僕は既にそんなことを思っていた。
「…ごめん、話についていけないんだけどつまり君は、以前から俺のことを知っていたってこと?」
「はい…そうです…。」
「それで君は、つまり君は、僕のことを推していると?」
頷きながら今すぐ消えてしまいたいと思っていた。
数分前の僕、一体全体何故、あんなことを言ったんだ。
「そっか…なるほど。」
その間が怖いです、ろく先輩。けれどもうこうなったら腹を括るしかない。
人間、極限状態に追い込まれるとある意味で振り切れるというのはどうやら本当のことのようだと、身を持って実感しながら僕はある決心を固めていた。
最後だ、きっと。もう僕となんか喋っても顔を合わせてももらえない。なら、せめて最後くらいはー。
「あの!実は僕、本命に落ちて今の高校に入ったんですけど、友達もいないしやる気もなくて正直、全てがどうでもいいって投げやりになってたんです!」
「あ、そう、なんだ。」
「そんな時にろく先輩に会って。カッコいいのはもちろんですけど、帰りに迷子になってる子を交番まで送り届けたの見て、めっちゃカッコいいなって思って!それでそこからめっちゃファンで!」
「そう、だったっけ。」
「つまり僕はッ!ろく先輩のことが好きなので、言いません!絶対に!だから安心してください!」
キモいかも。いや、キモいだろう。はぁはぁと息を乱し言い切り、はっと気がつく。
視線が痛い、痛過ぎる。何故なら僕は、その場に立って力説していたのだ。
終わった、今度こそ。だが、きちんとろく先輩に伝えられたからきっと大丈夫だ。
「あの、お金置いときますから。じゃあ僕はこれで。」
これ以上惨めに、居た堪れなくなる前に退散するべきだと、とてつもない速さで財布から札を一枚抜きテーブルに置いた。そして、脱兎の如く足を動かそうとした、その時だ。
「ちょ、待って。どこ、行くの。」
「え…?だって、もう。」
「まだ俺は話、終わってないよ?」
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